まえがき
「お金儲けのうまい人」と「お金の貯まる人」は
かならずしも一致しない。
いくらお金儲けのうまい人でも
儲けたはしから湯水の如くお金を使ったら、
新幹線の通過駅みたいなもので、
お金に素通りされてしまうだけである。
それでもお金儲けは楽しいものだし、
お金に通過されるだけでも、楽しいことはたくさんある。
お金と全く縁がないよりは、お金と関係がある方が人生は楽しいのである。
しかし、お金儲けとあまり縁のない人でも
その気になれば、お金は貯まる。
「塵も積れば山となる」のたとえ通り、
小さなお金でも貯めているうちに大きなお金になるから、
ケチケチしているとバカにするわけには行かない。
お金儲けの才能のない人でも、
少い収入の中からコツコツとお金を貯める心得があったら
お金儲けのうまい人より金持ちになれる例はいくらでもある。
もちろん、少ない収入の中からお金を貯めるのと、
お金儲けをしてお金をつくるのとではスピードもお金の額も違う。
しかし、お金を貯めるには元手が要らないのに対して、
お金儲けには元手が要る。
その元手をつくるためには先ずお金を貯める必要がある。
どんなお金儲けのうまい人でも、元手がなければお金は儲からないし、
自分に或る程度の元手がなければ、
元手を出してくれる人を見つけることもできない。
お金を貯める人はお金を大事にする人で、
お金を大事にする人でなければ信用できないと、
元手を出してくれる人は考えるからである。
つまりお金と関係のあることをやろうと思えば、
先ずお金を貯めることが出発点になる。
小さいお金だからといってバカにしてはいけないし、
大きなお金だからと言って安心してもいけない。
小さいお金でもそれが集まれば大きなお金になるし、
大きなお金でも油断をすればたちまち姿を消してしまう。
お金の原則にはいつの世になっても変わらないものもあれば、
時代と共に考え方を変えないと通用しないものもある。
「お金の貯め方」は前者に属する。
本書は1985年にゴマブックスの一冊として出版し、
長くベスト・セラーズとして読まれてきたが、
十七年たったいま読んでも少しも古くなっていない。
むしろいまのような成長経済が終って
ケチケチ・ムードの支配している時代の方が、
より実感を以て受け入れられるのではないか。
お金を貯めるためなら、
いつから実行しても決して遅いということはないのである。
2002年3月吉日 邱永漢
北京の寓居にて |