第59回
出世するかどうかは、他人をどれだけごちそうしたかで決まる?
日本の社会のシステムは、
下からだんだんに上がっていって出世する仕組みになっています。
下の人がいつまでも下ということはありません。
ですから、日本の実業界の人たちの中にはそういう、
先物を上手に買う人もいるんです。
実業界の人は、職業柄、電電公社の人間とか
通産省の役人とつきあうことが少なくありません。
そういったとき、いまのトップや次官とつきあうのもだいじですが、
ほんとうにうちとけた仲になろうと思ったなら、
まだそこまで出世していない課長か部長のときから、
心やすくしておくことに限ります。
私の知人の中にも、「研究会」と称して、
これから出世しそうな人を呼び出して定期的にごちそうしている人がいます。
課長や部長がいつまでたっても同じ課長だったり、
部長だったりしているわけではありません。
そのうちに偉くなって、
ごちそうしてしてくれた人に便宜を図ってくれることもあります。
「人が出世するかしないかは、
ふだんからどれくらい人をごちそうしているかに比例する」と、
皮肉屋の林語堂も言っています。
役人として出世するとか実業家として成功するとかということには、
やはり饗応というものが欠くべからざるものだということです。
落語の”花見酒Wは、熊さんが八っつあんの分を払い、
八っつあんは熊さんの分を払って、
結局は全部飲んでしまってお金がなくなったというものですが、
世の中は、お金がそうやってめぐっているうちに、
自分のお金が他人のお金を連れてくることもあるわけです。
人との関係をよくするには、飲み食いがついてまわるのです。
そうでなければ、日本の国で
年に三兆五千億円もの交際費が計上されるはずがありません。
しかし、ごちそうをしても、ごちそうしかえしてくれる人は
案外少ないものですね。
もとより答礼を期待しているわけではありませんが、
「ごちそうした分の三分のーも返してもらっていないなあ」と、
ときどき女房と話をすることがあります。
もし、 ごちそうをする回数と出世に函数関係があるとしたら、
世の中に出世しない人が多いのも無理はないな思ってしまうほどです。
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