第72回
すぐにお金を貸してくれるところから借りるのは、自分の首をしめるだけ
私はかねがね、
「簡単にお金を貸してくれるところからは借りるな」と言っています。
たとえば、簡単にお金を貸してくれる金融機関として
もっとも一般的なのが、消費者金融でしょう。
もちろん、消費者金融もお金を貸して利息をとるのが目的ですが、
五百万円、一千万円の金額になると、
返済に問題が出てきそうな人には貸しません。
ところが、会社にはいったばかりで、
十数万円しか給料をもらっていない人でも、
消費者金融に行けば給料以上のお金をすぐに貸してくれます。
はじめて消費者金融に行くと、窓口には美人が並んでいるし、
「ちょっとお待ちください」と言って、
コーヒーまで出てくるところもあります。
そういう借金をするときの人間の心理状態は、
どことなく後ろめたい気持のあるものですが、
そういう気持をできるだけ感じさせないように気を配っています。
そういういい気分にさせておいて、
「もうすこしご融資しましょうか」ときます。
その手に乗って、十万円でいいと思っていたのに
二十万円借りてしまったということがよくあります。
ところが、銀行に行くと、店内にはいったところから
お客の服装や態度までジっと観察されているような気になります。
融資を申し出てからも、借金の目的や返済方法を根ほり葉ほり質問します。
すこしでも不安な感じをあたえると断わられますし、
承知してくれる場合でも、審査とか、
担保の設定とか、手続きに、かなりの時間を要します。
断わられた側からみれば、
銀行の態度は冷淡に見えるものです。
ことに、銀行と取引したことのない個人は、
「もう、二度と銀行なんかに行くものか」と、
その足で消費者金融に行ったりします。
マイホーム資金などをサラリーローンで借りたのはいいが、
返済できずに一家心中という最悪の事態に追い込まれる人など、
このパターンです。
銀行の金利(一九ハ五年当時)は、
高くてもせいぜい八パーセント程度です。
それが消費者金融の場合は、七ニパーセントというのもありました。
百万円を一年借りて、利息が八万円と七十二万円の差が出てくる。
やはりお金は、いちばん借りにくいところから借りるのが、
もっとも安全だと言えるのではないでしょうか。
借金のむずかしい銀行で融資を受け、
それでキチンと仕事をやっているということが、
社会的にも「一人まえ」であることの証しになるのです。
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