第96回
「武士は食わねど高楊子」が日本人のお金に対する考え方
島国で、長いあいだ鎖国をつづけていた日本には、
ほかの国ではみられない独特のものの見方や考え方があります。
「金のことは口に出すな」という言葉に象徴されるお金に対する考え方も、
日本ならではのものです。
「お金のような卑しいものに心を奪われてはいけない」ということですね。
どうしてこんな考え方をするようになったかというと、
どうも私は、江戸時代の武士の意識の持ち方に
起因するような気がしています。
江戸時代でももちろん、武士や農民以外に商人や職人がいて、
その人たちは報酬を得ることを目的にして働いていました。
ところが、武士だけは支配階級として、
それらの人びとの上に立ってきたので、
税金で取り立てたお金で暮らしていました。
武士の俸禄は、百石とか、二人扶持とかお米で表示されていますが、
けっしてぜいたくできるほどたくさんではありません。
ですから、自分たちはお金のために働いているのではない、
藩のため藩主のためなのだと自分たちに言いきかせないと、
みじめすぎたのです。
そこで、物質を軽んじ、精神面を強調するようになり、
痩せ我慢をしながら、お金を卑しむようになったのだ、
と私は解釈しています。
いまでも、金銭を度外視して
精神面での結びつきを重要視する風潮は根強く残っています。
たとえば、代議士とその部下たちも大威張りですが、
その関係は、お金だけでは割り切れない面が多々あります。
うまくいって当選すれば一緒になって栄える。
落選すると、「平家の落武者」みたいに、
悲惨なことになってしまいます。
そういう伝統がいまなお脈々と生きているわけですから、
政治家に「経済観念がない」のも当然であり、
そういう人たちによっで運営されている国家財政が大赤字になるのも、
考えてみれば無理からぬことです。 |