| 第178回“中国大陸の香港化”説を探求しましょう
 邱さんは『私は77歳で死にたい』という本の中で「仕事をつくりだす角度を忘れるな」と書いています。
 もしこの「仕事をつくりだす角度」を習得できたら
 世の中怖いもの知らずですね。
 そう思って、邱さんが実際に中国大陸で
 事業を切り開いてきた実際の姿を追ってきました。
 邱さんが中国大陸で事業を展開していく様子は、傍らから見ているだけの人間をしても
 ハラハラさせるほどにスリルに富み
 冒険心を満たしてくれるところがあります。
 と同時にこの作業を進める途中、私は邱さんが中国大陸で事業を展開する前、
 つまり、香港が英国の統治下にあった頃ですが、
 9年後に香港が中国政府に返還されるというときに
 香港の将来を明るく描いた力は
 並み大抵のものではなかったなあ、
 ぜひそのころの邱さんの観察と想像と決断を
 探求したいという気持ちに襲われました。
 どういうことかと云いますと香港が共産主義の中国に返還されたら、
 さしもの活力のある香港も輝きを失い、
 ゴースト・タウンになってしまうのではないかと
 誰も彼もが、言っていた頃、邱さんは
 「香港が中国大陸に飲み込まれるのではない、
 中国大陸は香港化するのだ」と
 香港の将来をその頃の常識と反する形で描いたのです。
 邱さんは書いています。「日本のチャイナ・ウオッチャーの多くが、
 1997年の返還を境に、香港がゴースト・タウンになると
 予言したのに対して、私は
 『中国の経済の発展は中国の香港化からはじまる』
 と異を唱えたことがあります」(第674回)
 邱さんがこうした見方を提示したのは昭和63年頃のことですが、それから3年たった平成3年のときも私はそのことを知らず、
 ある海外投資セミナーに出かけました。
 たまたま、そのセミナーの主が、あれこれ自説を披露したあと、
 「いま邱永漢さんが香港への投資を薦めていますけど、
 あれは危険ですから止めておいたほうがいいですよ」
 と言ったのです。
 「ええ、いま邱さんは香港への投資をすすめているのか。
 そんなことを知っていたら、ここに来るんじゃなかった。」
 と思ったことでした。
 私は邱さんの意見にイチャモンをつける人には
 一言、言いたくなる性分の持ち主なので、
 セミナーが終ったあと、そのセミナーの主のところに行って
 「邱さんへの香港投資話が危険だとのお話でしたが、
 邱さんは人を危険なところに陥れるような人ではありませんと」
 と釘をささせてもらいました。
 今考えれば、その人に指摘されてはじめて
 邱さんの“中国大陸の香港化”説に気づいたのですから、
 感謝しなければならなかったのかもしれませんが。
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