企業が進出先を選び、選ばれた国は豊かになる
国の利害と企業の利害はますます一致しない方向に向っている
どこの国でも、体制派はいつも保守的である。革命を地で行ったようなことをやってきた人々でも、権力のトップに上りつめれば、保守的になる。ことに役人は、保守的なトップの、そのまた使用人だから、保守的でなければとてもつとまらない。保守とは、現状に執着することであって、いかなる変化にも反対する。
しかし、世の中は、地球が自転するように、次から次へと新しく変化する。
そうした変化に最も抵抗するのがほかならぬお役人である。
物をつくって外国へ輸出するのは、お金を稼ぐことだから奨励はするが、その代金が外国へ流れることにはきびしく警戒の目を光らせる。税金を安くして、外国から物を輸入させることは、国内の既成秩序に大きな変化あるいは打撃をあたえることだから、門はなるべく固く閉ざして中に入れないようにする。
ところが、それではにっちもさっちもいかなくなる時代がやって来る。輸出がふえすぎて、外貨が溜まりすぎると、金あまりで土地と株が大暴騰をする。円高が進むと、今まで日本の持っていた外貨は大暴落をする。保守的な役人のなかでも最も保守的な農水省のお役人に守られて、農業はまだ何とか成り立っているが、円高のせいもあって、気がついてみたら、外国の十倍もの米価になってしまっている。門戸をひらけという外圧は強くなる一方だし、円高で日本からの輸出はますますきびしくなっている。
これらのきびしい環境に対処していくためには、いくら保守的な役人でも、遅ればせながら、然るべき対策をしなければならない。外貨がふえると、外貨を溜めておくダムが決壊しそうになるし、外圧も強くなる。そのためには、為替を一層自由化し、外国へお金を持ち出すのを自由化するよりほかない。また円高になって国内で生産しても引き合わなくなれば、企業は外国へ引っ越しをするよりほかなくなる。少し前までは、企業が海外投資をしようとしても、お金を持ち出すことすらできなかった。相手国の投資許可をもらうのも大変だったが、その許可をもらったあとに、日本銀行や大蔵省の許可をもらうのが一仕事だった。日本に外貨があり余るようになってからは、一○○○万円以下の投資は許可をもらう必要がなくなったし、一○○○万円以上でも届け出さえすれば、自動的に承認されるようになった。それが今では三○○○万円になった。このことは、大蔵省や通産省が海外投資を奨励するようになったからではない。外貨が減るほうが厄介払いになると思われるような環境になったからである。
一方、企業が盛んに海外に工場を移すようになったのも、国に奨励されたからではない。
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