第686回
ワインの諸々 62
ワインの雑味とは?
ワインのおいしさを表現するのは料理以上に難しいかもしれません。
というか、以前述べましたように、
ワイン業界は他の酒類と違って
高級感を持たせて差別化したかったからでしょうか、
やたらと複雑な評価基準を造ってしまいました。
テイスティングという言葉自体、
なにか特別な高級な印象をもたらしますが、ただの「味見」です。
しかしその「テイスティング」のチェック項目には、
色、輝き、透明度、グラス内面への粘着の仕方、と複雑怪奇。
エッジ(グラス内面に接触する部分)の色あいまで
コメントしなければなりません。
香りに関しても
無理に色々な多種にわたる香りをかぎだしたがります。
パッションフルーツの香りの中に、下草の香り、
それに獣臭にトリュフの香りまで感じるなんていうコメントを、
正気の顔で皆言っているのですが、
こんな香り、実際信用できますか。
味わいも、アタック(最初に感じた味わい)はなんだ、
余韻は何秒続く、なんて
実際ストップウォッチで測るでもないのに
そんなコメントも要求されます。
しかし、日本酒や焼酎、モルトでもいいでしょう。
他の酒類でこんなに細かく
「味見」のコメントを求められるお酒があるでしょうか。
いい歳をした大人が、本当は感じなくても感じたように
いくつもの香りなどをコメントで羅列するのがワイン好き、
ワイン協会の一般的な方針です。
そのような手間のかかる「儀式」を確立することによって、
他の酒類との差別化、高額化を狙っているのでしょう。
ビールや焼酎、モルトでは
こんな細かい評価は考えられないのですが、
ワインはそれほど複雑であるというのがこの業界のウリなのです。
確かにパッションだ、カシスだ、
杉の香りだ、下草だ、トリュフだ、獣臭だと
1本のワインから本当に嗅ぎ分けられるかは疑問でありますが、
良いワインは単純ではなく、
香りや味わいに複雑みがあるのは事実です。
そこが乾燥穀物から造られる日本酒や焼酎と、
生鮮穀物から造られるワインとの違いであるとも言えるのではないか
と思うのですが、
(醸造酒と蒸留酒の違いもあるでしょうが)
最近はワインにあまり詳しくない方の
ワインの褒め方にちょっと疑問を感じています。
雑味が少なく、すっきりした酸とさわやかな甘みがあるのが良し、
とした評価をよく見ますが、
業界の掛け声どおりとは言えないまでも、
ワインの良さはその香りを含めた「複雑味」にあります。
「雑味」がブショネといった有害なものと限定していないならば、
「雑味」のないシンプルなワイン、
ただ爽やかな酸味と甘みだけでは
たいしたワインではないと考えます。
以前から述べていますが、
ワインは熟成するにしたがってその複雑味は増しいきます。
シャンパーニュ、白、赤の辛口ワインもそうですが、
特に顕著なのがソーテルヌなど甘口ワインです。
この甘口ワインは、何十年も熟成させないと、
ただの「雑味のない」甘いワインであって
面白くもなんともありません。
それは、世界最高といわれている
「イケム」にも言えることであります。
先日のスシのコラムでも言えるのですが、
色々なジャンルのスシを食べ続けて
はじめてスシが何たるかが「わずかに」わかってくるもの。
ワインも同じで、
最近のここ20年前までの若いワインばかりしか飲まないで、
昔の力強い造りの熟成したワインなど
色々なワインを経験することなく、
ワインに対して公にコメントするには無理があると私は考えます。
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