第685回
都心に出てくる料理人ばかりでない
最近ざっと思い浮かべただけでも東京の都心に移転、
または分店で進出してきた店は
数え切れないくらいあるのではないでしょうか。
マスヒロさんに言わせると料理人には特別の場所という
「銀座」だけでも、水谷、さわ田といった鮨屋から、
創作和食のリョウリ ゲンテン、イタリアンのアソの他、
なんと驚くことに赤塚という郊外にある中華・芝欄まで
調子に乗って出てきてしまいました。
数年前からを考えますと、
大阪や京都といった関西からの銀座進出も目立ちます。
大阪の創作フレンチ風洋食のクロドミャン、串揚げの六覺燈、
京都の創作フレンチモドキのヨネムラに、
ただの「ダイニング料理」が
東京では「京料理」として紹介されている「やた」、
そして同じ東京都内からでも
銀座に移転して客が減って後悔しているか、
トンカツの「かつぜん」に鮨の「逸喜優」です。
郊外から都心への移転では、
あのネット検索で自店の評判を気にしすぎている
「チャイニーズレストラン 直城」も挙げられます。
ネガティヴなネットでの意見を
許す事が出来ない性分なのでしょうか、
昼夜を惜しんで料理の研鑽ではなく
ネット検索で寝る間もなかったからでしょうか、
この料理人はオープン3ヶ月たたず体調をくずし、
数日間入院して店をクローズしてしまったと聞きました。
どうしてみんな、銀座や都心を目指すのでしょうか。
地方で評判でも、最終的には都心、
特に銀座で成功してはじめて世間に認められるといった
変な錯覚を抱いているのかもしれません。
郊外や地方での成功では飽き足らない、
自己顕示欲の強い人が多いのが料理人の特徴のようですが、
移転して集客に苦しんでいる人、
後悔している料理人が結構いることはあまり知られていません。
そんななかで、月刊「専門料理」という雑誌の5月号では、
都心ではなく、
敢えて地方で勝負している料理人の特集が載っていました。
島根は出雲の国のフレンチ「ランコントレ」。
長崎のビストロ「ピエ・ド・ポー」、
浜松のイタリアン「オステリア ダ・ミケーレ」などです。
都内でも次々新店ができまた潰れていく様を見ている私にとって、
こんな地方でフレンチやイタリアンが成り立つのだろうかと
不思議に感じた次第です。
しかも驚いたことに、ディナー料理だけの客単価でも、
4〜7千円くらいと都心とそんなに変わりません。
地元の生産者との交流を密にしたい、都会にはない魅力を出したい、
といった表面的なうたい文句はあるようです。
本人か奥さんの出身地に近く、独立の際は援助してもらいやすい、
といった理由があるのかもしれませんが、
都心の再開発ビルとは月とスッポンの賃貸料に人件費、
そして仕入れ食材費を考えたら、
都心と同じ価格設定ならば普通は、
はるかにCPによい料理を出すのではないかと想像、
その地を訪れる機会があったら
訪問してみたいという気持ちになってしまいます。
何も見栄を張って、
賃貸料、人件費が高く激戦の銀座など都心に出て行って
苦労する必要はないのではないか。
見栄さえ捨てれば、住みやすい地方で競争もなく、
地道に自分の好きなように料理を提供し続けて
心穏やかに過ごす事ができるのではないかと私は考えるのです。
築地という日本最大の市場でよい食材を仕入れたいために
都心へ出てきたという料理人もいます。
しかし、彼らが本当に築地の一等品を仕入れているのでしょうか。
ほとんどの高質食材は、
実績のある店やコネのある店に押さえられていて、
ポッと出の料理人にはまわってこないのが現状です。
高質な食材の入手は激烈なはずです。
単なる「見栄」、
銀座や都心で成功したという名声を得たいが為の移転。
「さわ田」や「水谷」の今のところの成功をみて、
上野毛の「あら輝」も主人の性格からして
早々に都心進出を狙っているのではないかと
私は予想してしまいます。
何しろあれほど派手な
出版記念パーティをやってしまった方なもので。
しかし、「ル マンジュ トゥー」も
一番町かどこかに移転すると何年も前から噂にききますが、
まだ私は移転を確認しておりません。
立地の悪いその地にあってこその、
今の名声だということをようやく自覚したのでしょうか。
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