第599回
看板のない店特集なんかするな
雑誌の編集長は新しい企画を考え出すのが仕事の一つと思います。
よくまあ、次から次へと新しい企画を考え出すと感心しますが、
この手の雑誌の内容は所詮ただの「ヨイショ店紹介」ですから、
切り口を変えていかなければ
ネタ不足ですぐ休刊となってしまうでしょう。
「フレンチ特集」、「イタリアン特集」。
いまどきこんな大雑把な企画物は見当たりませんが、
「肉のおいしい店」、「野菜の美味しい店」、
「テラスのある店」、「個室のある店」などの企画物は、
まだ食材や使い勝手の面からわかります。
TVなどでやる煽りのパターンとして定着した
「取材拒否の店」特集。
店は普通宣伝したがるはずですから雑誌掲載は喜ぶはず。
ところがその掲載を拒否するのですから、
予約や常連で一杯のおいしい店だと
この友里のような単純な読者をひっかける巧妙な店側の戦略。
実は「取材拒否」が宣伝だということがわかるのは、
訪問した店内に客があまり入っていない現実を見たときです。
しかし最近私がいかがなものか、と思った特集が
この「看板のない店」特集。
「男の隠れ家」という雑誌で
2005年版特集が載っていたところを見ると、
2004年版もやったのでしょうか。
単純な私はこの特集を読んで、
「看板を出さない、っつーことはやはり料理がおいしいので
常連や口コミで客が一杯な人気店なんだ」
と勝手に解釈、すぐさまいくつか飛び込みました。
でも、よく読んでみると確かに看板はないようですが、
店の住所や電話番号は立派に掲載されていて、
簡単に予約がとれるんですね。
しかも、飛び込んだら客が私一人だった、
といった笑える場面もありました。
またもやこの手の「宣伝」のカモになってしまったようです。
要はただ本当に「看板を置いていない」だけ。
マンションなどに入っている店の場合、
出したくても意匠的に出せない場合もあるでしょう。
何の店かわからない怪しい雰囲気で、
隠れ家的なイメージを出し、
他店と差別化して集客をはかろうという
営業戦略の場合もかなりあると思います。
費用の面で、看板を造れなかっただけの場合もあるかもしれません。
変なコレクション嗜好の人に、
看板を盗まれた直後の店かもしれません。
つまり冷静に考えればすぐわかるのですが、
看板のある、なし、は
料理人の腕、使用食材とはまったく関係がないということです。
あたかも「看板がない」=「おいしい満足する店」
と単純な読者を勘違いさせるこの企画、
いくら雑誌の誌面稼ぎとはいえ、この企画はやりすぎです。
エスカレートしてきたら、
「明細を出さない店」、「客に緊張感を与える店」、
「カード決済できない店」、「メニューやワインリストのない店」
(これは既にウリにしている店があります)、
「電話のない店」などいくらでも企画が考えられてしまいます。
でも私はいいたい。
一般客、一般読者に必要な企画とは、
「勘違いした料理人の店」、
「性格に難のある料理人の店」、
「料理評論家、フード・レストランジャーナリストたちと
コンサル契約、プロデュース契約を結んでいる店」、
「カード手数料を客に負担させる店」、
「勝手に次の客の予約をとって先客を追い出す店」
特集ではないかと。
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