第321回
癖になってしまった麻婆豆腐

最近私は麻婆豆腐を食べまくっています。
ネットや雑誌でおいしいと紹介されている店を訪ねては、
味の違いを確認しているのです。
きっかけはきわめて単純です。
「Ｈａｎａｋｏ」のおいしい店グランプリ特集の
中華の分野で見事「グランプリ」に輝いた
新橋の「趙楊」へ行ったのですが、
その店の一番のウリといわれる麻婆豆腐に疑問を感じたからです。
辛い（ラア）、痺れる（マア）のバランスの中に
肉や豆板醤、トウチなどの
複雑な味わいを感じるものと思っていたのですが、
この店の麻婆豆腐は、
舌先だけでなく唇も痺れるくらい「マア」を感じますが、
その他の味わいをまったく感じません。
これが今や飛ぶ鳥落とす勢いで活躍中のレストランジャーナリスト、
犬養裕美子氏を委員長にいただいた
グランプリ選考委員会が堂々と「グランプリ」に推した店、
料理なのか。

残念ながら私は中国、
ましてや四川へ行ったことがありませんので、
その場で判断ができません。
次の週から、
本場に近いという「麻婆豆腐」とはどんなものかを求めて
彷徨いはじめたのです。

日本に初めて紹介した息子がやっている有名店、
中華街でうまいとされている店、
本場の店との提携店であるお台場や赤坂の店、
雑誌で紹介されていた大阪の店、と
週に１回から２回のペースで食べていたら、
いつからか間隔があくと体が欲するようになりました。
正確にいわせていただけば、
麻婆豆腐に使われている「花椒」（ホアジャオ）の香りや刺激に
癖になってしまったようです。

ついには中華街の食材屋で「特選花椒」を買ってしまい、
家でミルをつかっていろいろなものに振りかける実験もしました。
鮮度の高い赤い実のものですが、
いくらかけても「趙楊」のような激しい、
他の味を消してしまうほどの痺れはありません。
勿論、色々食べ歩いた店の麻婆豆腐も
他の調味料なり肉の味わいを感じました。

最後の手段で
私は花椒を実ごと何粒も口にいれて噛み潰したのですが、
そのときの味というか痺れが「趙楊」にそっくり。
何回も「趙楊」で確認しておりますが、
新橋までわざわざ食べに行かなくとも、
ホアジャオの実を食べるだけで
代替ができるのではないかと考えた次第です。