自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第45回
鰻の柔らかさに疑問はありませんか

私は前々からマスコミで評判になっている店、
例えば「野田岩」、「尾花」などの
鰻の柔らかすぎることに疑問を持っています。
「蒲焼」とは名ばかりで「蒲蒸し」に感じてしまいます。
料理名のとおり、焼き物とはとても思えないのです。
フワフワしすぎて食感がまったくありません。

よくフードジャーナリストなどが
「口の中で溶けていくようでおいしい」といった
表現をしているのを目にします。
でも、本当にフワフワでおいしいのかと。
「重」にした場合はご飯で多少蒸れてしまうでしょうが、
基本は「焼物」のはずです。余分な脂を落とすために、
さばいてからちょっと素焼きして蒸しますが、
「焼き」よりも「蒸し」が強く感じてよいとは思えません。
過度の脂を落とすため
蒸しを強くしなければならないというならば、
それは養殖ものなのでしょうか。
それとも身が締まっていない鰻なのでしょうか。
「焼き魚」の範疇で、しかも川魚としての香りや食感を楽しむなら
不必要な「蒸し」はかえって邪魔になるだけです。

料理評論家、フードジャーナリストが推奨している店はたいてい、
この蒸し過ぎというか柔らかすぎの鰻屋が多いのですが、
これらの店とは違った食感の鰻を出す店もあるのです。
広尾の「田丸」。街場の店の典型のような店構えですが、
蒸してはいても焼き魚のような香ばしさがあり、
腰のないフワフワ感はありません。タレも甘めではない。
新宿の「勝三」も同じく街場の店ですが、
小さめな鰻で食感はプリプリです。

柔らかすぎる鰻の店が全盛のようですが、
一度、プリプリ感、香ばしさのある鰻も食べてみて
比べていただくのもいいのではないでしょうか。


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