人間も料理も初めに勝負あり!

しかし、何十年かたって、自分が新人たちの原稿を見る立場になってみると、本当の勝負はそうした道具立てにはなくて、書き出しの最初の三枚くらい、読む人が忍耐を覚悟で読みはじめる最初の五分間に、その人の心をとらえるかどうかにかかっていると思うようになった。応募原稿を読む人は、それが仕事だから、あと十分か、二十分か、ガマンして読み続けてくれるかもしれないが、実際は、あといくら読んでも結果は全く同じなのである。どうしてかというと、最初に見せた地肌がそのまま先へ続いているわけだから、途中から俄然、面白くなっていくようなことはまず起こり得ないのである。
もっともシロウトの書いた文章を読んでいて、最初の一章は不要だな、とか、もっと刈り込めばよいのになあ、と感ずるような場面にはしばしばぶつかる。多くの場合、これは、人がどんなことに関心を示すか、に焦点があっておらず、人が実際例に興味をもっているのに、原理原則を語らないと本題に入れないという間違った先入観にとらわれているからである。そういう人は、一回目は失敗しても、要領を習得すれば、二回目、三回目に成功するチャンスはある。この意味では、料理人が自分の力量不足をカバーする方法として、良い材料を選ぶコツを覚えておけば欠点が目につかないように、文章を書く場合も、材料七分、腕三分くらいで、テーマを選べば世間に認められる確率が高いであろう。私の場合は、「華僑」という日本人の頭の中にはイメージとしては存在するが、実態にはほとんど触れていない素材を選んだので、選者たちの好奇心をひくことに成功したのではないかと思う。

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