第385回
60歳、70歳、80歳?まだこれからですよ
敬愛するジャーナリストの1人、
塩澤実信さんが上梓した、350ページの新刊大著
「ベストセラーの風景」の話の続きです。
とくに面白かったのが、若者に負けずに、
64歳で直木賞を受賞した佐藤得二さんの秘話が
取り上げられていることでした。
塩澤さんが80歳を目前に大著を次々と書き下ろす姿と
オーバーラップして、じつに興味深いことでした。
というのは、人生は後半、「まだこれからからですよ」・・・
これが塩澤さんの持論となっているからです。
僕たちの会員雑誌「いのちの手帖」第5号の
≪作家に学ぶ!長寿人生をどう生きるか?≫
という特集に、塩澤さんから
「75歳?引退なんてトンでもない!」という
エッセイを寄稿して頂いたことがあります。
塩澤さんが敬愛する出版界の大御所・
布川角左衛門さんから聞いた秘話ですが、
少し再録しておきましょう。
*
(布川さんが)75歳を迎えた年のことでした。
(野上)弥生子先生を訪問した折に、
「わたしはもう75歳になりました。
そろそろ引退しなければと・・・」と、
近況を語り始めますと、
それまで慈母の微笑を浮かべていた
卒寿(注・90歳)作家の横顔に、
きびしい影が走ったと言います。(略)
「何を言うんですか。わたしは90歳になって、
やっと文章らしい文章が書けるようになったんですよ。(略)
引退なんてとんでもないことです。
あなたの人生は、これからです。これからですよ」と、
毅然として言われたそうです。(略)
布川氏は、このとき以来、
年齢によって人生の舞台から降りる考えに封印され、
78歳から倒産した筑摩書房の再建に尽くされたのです。
私は40代半ばで出版社を辞め、
出版ジャーナリストの看板を掲げて、
布川角左衛門氏に私淑することになりましたが、
最初に言われた言葉は
「まだ若い。これからだよ」
の未来思考にあふれた励ましでした。(以下略)
*
ちなみに、布川角左衛門さんは94歳の長寿を全う。
野上弥生子さんは、なんと100歳目前まで
小説を書いておられたそうですが、
かくして、「まだ、これからですよ」が、
ますます意気盛んな、
塩澤さんの処世訓となったようなのです。
本書「ベストセラーの風景」にも若者顔負けの
情熱のエネルギーがほとばしっています。
ぜひ紐解いて下さい。
もう1冊、手元に贈られてきた大著は
「『坂の上の雲』もうひとつの読み方」です。
年末放映の大河テレビドラマとも連動しています。
ベストタイミングの出版です。
こちらも合わせて読んでみて下さい。
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