第384回
直木賞受賞の最高齢は64歳
僕の敬愛する先輩ジャーナリスト・出版評論家の
塩澤実信さんから、ドサッと
分厚い新刊本が2冊贈られてきました。
塩澤さんは、僕より1年前に
直腸ガンの手術を受けられ、
以降、生まれ故郷の信州・飯田の
旬の野菜や梅干しを基本した自慢の手作りの料理、
つまり、自然食生活を継続して
上手に、元気で長生きされている人です。
僕より10歳上ですから、来年は傘寿ですが、
350頁を超える大著に健筆を
ふるっているわけですから、
まさに80歳にして、心身共に充実。
元気で長生きの境地を満喫しているなあ・・・、
と感心しながら、読ませて頂きました。
1冊は、「ベストセラーの風景」と題する、
昭和から平成に一世を風靡したベストセラー誕生の
舞台裏を克明に検証した本です。
インターネットや携帯電話に
メディアの座を奪われつつあるとはいっても、
「本は時代を映す鏡」といわれます。
塩澤さんは、とくに戦後出版史とともに、
歩んできた人ですから、
おそらく現存ジャーナリストでは唯一の検証人――、
僕は冗談に「塩澤さんは、出版界の世界遺産だ」と
評価していますが、
戦後ミリオンセラーの作品評価のみならず、
「太陽の季節」ほかの芥川賞・直木賞の盛衰史、
そして「頭のよくなる本」など
カッパ・ブックスに始まる新書の興亡史――、
通読すれば、戦後の文化風俗史も
理解できるように巧みに構成されていますから、
年末年始の休みに読む1冊として
推薦しておきます。
最近の傾向は、10代の芥川賞・直木賞作家が注目され、
「ハリーポッター」といった魔術ノベルが若者に受けて、
全世界で3億部売れた現象に象徴されていますが、
僕が、本書を読んで面白いと思ったのは、
塩澤さんが、60代からデビューした直木賞作家や、
「恍惚の人」のような老人文学に評価を与えていることです。
このhiQの主宰者・邱永漢さんが小説「香港」で
直木賞を受賞したのは31歳のときでしたが、
長編小説「女のいくさ」を書き下ろして、
64歳で直木賞を受賞した佐藤得二さんが
同賞の最高齢者だと明かされています。
このエピソードは、塩澤実信さんが80歳を目前に、
大著を書き下ろす姿とオーバーラップして、
じつに興味深いことでした。
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