第379回
70歳からのデビュー小説
いまの流行語のアラフォー
(Around Fourty = 40歳前後)に真似てみれば、
僕は幸運といいますか、悪運強くといいますか、
アラカン(還暦)の60歳目前に病棟を脱走!
「ガンを切らずに10年」・・・
アラコキ(古稀)の70歳を迎えることとなりました。
そうした過ぎ去った歳月の感慨にふけっているときに、
長らく会っていなかった西村眞さんという、
名編集長で鳴らした
1歳年上の先輩ジャーナリストから
《70歳からのデビュー作》と銘打った
新刊小説が贈られてきました。
タイトルは「東京哀歌」です。
裏表紙には、達筆で次のような
著者直筆のサインが書かれていました
「七十歳過ぎての手習い、ご笑覧を。西村眞」
西村さんは、明治大学文学部フランス文学科在学中に
『女性自身』編集部の花形ライターとなり、
やがて「週刊女性」副編集長を経て、
僕が週刊ポストの編集長の頃には
月刊男性誌『BIG TOMMOROW』を
70万部に伸ばす剛腕編集長をやっておられました。
以降、10誌を超える雑誌や
ムックの編集長として活躍した名物ジャーナリストですが、
いよいよ、70歳にして、念願の作家として
デビューしたことになります。
一時は大病で体調を崩されたと
葉書を頂いたことがあり、心配していたのですが、
この《70歳の挑戦》には
なんとも爽やかな感動を受けて
本を読ませて貰いました。
内容は、戦後の混乱が落ち着きをみせた半世紀前、
地方から東京に上京し、やがて「高度経済成長の先兵となる
"東京初代"――いわば、著者の分身ともいえる
若者を主人公とした青春のドラマを描いた5編の短編集です。
この中の「写眞」という作品は、
すでに60歳のころに「三田文学」に発表したようですが、
ほかの短編もそれぞれに読み応えがあって面白いものでした。
とくに「ブリキの軍刀」と「戸籍のない男」は
東京新宿のコンクリート・ジャングルの中で、
お互いに謎に包まれた《縁》を繋ぎ、
デラシネといいますか、
《根なし草》のようにして逞しく生き抜いていく
男女の愛憎――それが巧みな構成で描かれていて
僕は気に入りました。
おそらく、作者の筆が放つ、
懐かしい“時代の匂い”に誘われたのでしょう。
ドップリと浸かり込むようにして
一気に読んでしまいました。
続きは、また明日。
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