第346回
半世紀前の≪米食=低脳論≫
どうして日本人は、
欧米人の高蛋白、高脂質の食事を真似して、
2人に1人がガンになる――という
運命をたどってしまったのでしょうか?
これは、いまから半世紀以上前の太平洋戦争の敗戦、
そして上陸してきた米軍兵士たちの体格のよさを見て、
パン食、肉食を「国民の優位性」と
勘違いしたことから始まったといえましょう。
やがて、「栄養改善普及運動」が起こり、
食の近代化と称して
米食蔑視の政策が強要されたわけです。
有名なひとつが「米食=低脳論」の流行です。
当時、推理小説作家としても有名だった
林髞(たかし)慶応大学医学部教授が書いた
『頭脳』という本が欧米食礼賛ブームに
火をつけたといわれます。
「子どもの主食だけは
パンにした方がよいということである。(略)
せめて子供たちの将来だけは、私どもと違って、
頭脳のよく働く、アメリカ人やソ連人と
対等に話のできる子供に育ててやるのがほんとうである」
また1961年(昭和36年)の出版ニュース社調べでは、
林髞さんの「頭のよくなる本」〈カッパ・ブックス〉は
ベストセラー第4位にランキングされました。
いまから半世紀といえば、僕たちの世代は、
新制小学校の第1期生として入学しました。
それは食糧難で酷いもので、
やがて学校給食が始まったのですが、
コッペパン1個にひとかけらのマーガリン、
そして、鼻をつまんでも臭くて飲めない
占領米軍から供給された
「脱脂粉乳」を溶いたミルクだけでした。
この臭いミルクを残すと、先生から
「占領軍のマッカーサー元帥に殺されるぞ」
と脅されたのですから、
いまの飽食過食の社会からみれば信じ難い話でしょうが、
これが欧米食化の始まりでした。
いま盛んに隣国や発展途上国の飢餓状態の子供たちの
ニュースがテレビで話題になっていますが、
戦争、そして敗戦児童ほど辛いものはありません。
国民の精神、いや子供心をずたずたにするだけでなく、
健康の源である「食といのち」の発想まで
おかしくしてしまったわけですからね。
ガンやアトピーといった生活習慣病に悩まされる
長寿難病社会の端緒が、
半世紀前の「食思想の堕落」にあったわけです。
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