第344回
梅干しが教える日本人の知恵
「おばあさんの知恵袋」(復刊版はこちら)
から
梅干の話をもう少し続けましょう。
梅干の手作りの大変さが
実に、面白おかしく描かれています。
*
「梅は、塩漬けにしたあと、
みりん粕に漬けて粕漬けにもいたしましたし、
小梅はみょうばんを少し加えて
カリカリとかたく仕上げました。(略)
梅酒も作りましたが、庭の豊後梅の皮を一つずつ、
丁寧にむいたものを、
白砂糖に埋め込むように漬けますと、
三日ほどでグリーンのジュースができ上がります」
*
別に、70歳の筆者が懐古趣味にとりつかれて、
「おばあさんの知恵袋」の話を、
取り上げているわけではありません。
政治や経済のシステムはもちろんのこと、
衣食住のライフスタイルや命のあり方まで、
もう欧米から借りてきた
拙速主義の論理では間に合わない。
発想の限界が見えているのですから、
いまこそ日本人らしい発想を取り戻すべきだと思います。
グローバリズムという「一把ひとからげの発想」が
当たり前の論理のように徘徊するのはおかしいと
思いなおすべきときでしょう。
ちょっとまえの時代まで、
日本人は先祖代々、“人と土は一体”という
「身土不二」(しんどふじ)の営みの中で、
みんな人生を享受してきたわけです。
まあ世界平和云々といった大仰な話は別にしても、
その土地の自然の恵みを一人一人が満喫してこそ、
心身の平穏がもたらされるわけです。
「梅干ひとつ、手作りできない日本人」が
おかしいと思いませんか?
「おばあさんの知恵袋」は
洒脱な語り口で、そっと諭しているのではないか?
僕は最近つくづくそう思っています。
しかし、農薬まみれ、化学添加物まみれの食卓汚染が
わが身、わが命を危うくすると
気づく人も少しずつ増えて来たようです。
自分が食べる家庭菜園ぐらいは
作る若者も現れました。
スローヘルス(温和力)の波は、
とくに家庭の女性たちから
静かに広がっているといえるでしょう。
わが家の妻もキュウリやトマト、
パセリ程度のものでしたら、
小さな家庭菜園でこしらえるようになりました。
梅干も梅ジャムも手作りで、
梅酒も青梅を焼酎に漬けて造っています。
もう3年ものも5年ものもあります。
一人一人に日本人らしい「スローヘルス(温和力)」が
問われている時代でしょう。
ただ政治や経済の制度を変えるだけで、
住みやすい社会が
出来あがるわけではありません。
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