第233回
毛沢東は≪コピペ≫の天才?
中国伝統の「漢字熟語」を自在に駆使して、
プロパガンダの天才・毛沢東は君臨した――
大著「中国文化大革命の大宣伝」の読後感の続きです。
毛沢東は古詩転用の天才でありました。
今のパソコン用語風に解釈させてもらえば、
コピペ(コピー&ペースト=文章や画像をコピーして張り付ける)
の達人であったともいえましょう。
ちなみに、毛沢東がもっとも愛した唐代の詩人は、
李・杜・陶・白というより李賀であり、
その詩風は伝統にとらわれず、
幻想的で跳躍的な鬼才と評された人でしたが
著者は「牛鬼邪神」(ぎゅうきだしん)という
反毛沢東糾弾の中心的スローガンの裏に、
その影響力や引用力が隠されていると看破しました。
さらに卓越した漢字力、読解力のない為政者は、
中国では通用しないとも指摘し、
(注・いまの日本のリーダーの資格にも
言えることでしょうが・・・)
毛沢東のカリスマ性を次のように解き明かしています。
「毛沢東万歳のスローガン化は、
権力側の誘導によるものだが、
それに応えるかどうかは、民衆の知恵に属す」
「(大衆の)処世術、忠誠心、嫉妬、恐怖がそうさせるが、
最終的には、人間のうちにある
もっと根源的な防衛の機能(本能)がそうさせ、
一種の快楽にまで押しあげてしまうに
すぎないのではないか」と。
中国の伝統文化や書物文献を
“四旧焚書”(しきゅうふんしょ)として破壊させ、
毛沢東のみが孔子孟子の儒教の文献や、
李・杜・陶・白の詩文を独り占めにする――。
ときには孫悟空を持ち出して妖鬼撲滅を詠っては、
貪欲に名詩文を“コピペ”する。
それを思想宣伝メッセージとして
暗喩をこめつつ巧妙に連射・乱射したことになりますから、
事実は小説より奇なり・・・本書の読み応えは
J・オーエルの予言小説「1984年」を超えておりました。
「1984年」の偉大な独裁者・ビッグブラザーは
家庭内の巨大なスクリーンで大衆を洗脳監視する設定ですが、
そうしたテレビ&コミック風の仮説など吹き飛ばして、
アナログ、いや超アナクロ(?)な人間臭を
漂わせて君臨する“偉大的領袖・毛沢東”を
ドロドロと浮き彫りにする・・・。
読者をぐいぐいと引き込んでいく本書の筆力は圧巻です。
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