第231回
アブダクション(仮説導引推理)で解く≪毛沢東の謎≫
≪1200頁の大著!
「中国文化大革命の大宣伝」を読む≫の続きです。
著者の草野紳一さんは
次のように、自らの執筆の姿勢を明示しています。
「社会主義国家においてはすべてが
宣伝に基づく権力抗争である」と大仮説を立て、
「一見無関係でも、何か繋がりがあるはずだから書く」と。
その自在でアブダクション(仮説導引推理)の手法が、
硬直した学術論文では見えない
20世紀後半最大の謎を小気味よく解いて、
読者をぐいぐい誘い込んでいきます。
さて、カリスマ毛沢東こそ
≪プレゼンテーション(企画提示)の魔術師である≫と断じ、
73歳の高齢・毛沢東が「なぜ長江を泳いで見せたか?」
の謎解きに始まって、
文化大革命に次々と登場する
≪行動と政策と語録≫がすべて権力抗争に
生き抜くための宣伝武器であったと看破していきます。
≪紅衛兵≫≪壁新聞≫≪下放≫
≪毛沢東語録≫≪毛沢東の筆蹟や肖像≫
≪ニクソン訪中≫≪万里の長城≫≪毛主席万歳≫・・・
すべての記号キーワードを、
プロパガンダとして連射したところに、
≪宣伝の皇帝≫であり、
≪スローガン(標語)の天才≫であり、
≪メッセージ支配の魔術師≫ある――、
毛沢東の実像があったと。
本書の視点は、まさに、マルチ(多角複眼的)で、
アブダクション(仮説導引推理)の論理展開を駆使した
ノンフィクションです。
詳細は読んでのお楽しみですが、
僕が現役の週刊誌編集長のころ、
文化大革命の謎について、
いろいろと教授してくれた、
評論家の大森実さん、カメラマンの三留理男さん、
そして共同通信の北京駐在記者・伊藤正さんらの
若き日の現地奮闘の模様も随所に再現されていて、
懐かしく思い出しながら読ませて貰いました。
そして、≪謎解きの最大の鍵が
毛沢東の「中国詩論」の借用・援用・転用にあり≫とする、
著者の指摘がなんとも面白く、
ぞくぞくしながらページを手繰ったわけです。
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