第217回
≪声を出していのちを掴もう≫3
猿ヶ京ホテル(※1)の女将であり、
民話活動のリーダーである持谷靖子さんが企画した、
「ひとりオペラ与謝野晶子 みだれ髪」は
まさに≪声を出していのちを語ろう≫という公演活動でした。
6月6日、群馬県水上町カルチャーセンターで、
500人ほどの観客を集めて開かれました。
第1部の記念公演「晶子・その人と作品」は、
与謝野晶子倶楽部副会長で、
元大谷女子大学教授の入江春行氏によるものでしたが、
「みだれ髪」「君死にたまふことなかれ」「新訳・源氏物語」
という晶子の代表作を1時間で
分かりやすく解説するものでした。
「与謝野晶子の発表する歌は、時代の先見に満ちていたがために、
その評価は毀誉褒貶(きよほうへん)。
『娼婦、夜鷹の類の歌』との酷評も受けた。
しかし、晶子自身、マコトを歌わなければ歌ではない。
私は撤回はしない。きっと100年たったら私の碑が立つ・・・
と断言する自信家でした。
その通り、いま、この水上町にも
記念碑公園が出来たわけですから、
晶子の予言があたったわけですね」といった話でしたから
とても面白くてためになる講演でした。
さて、「ひとりオペラ、与謝野晶子」ですが、
2幕、36のアリア(独唱・語り)の構成です。
●やわ肌の 熱き血潮に 触れも見で 寂しからずや 道を説く君
●ああをとうとよ 君を泣く 君死に給ふことなかれ
●山の動く日きたる かく云えど 人これを信ぜじ
●いさり火は 身も世も無げに 瞬きぬ陸は海より 悲しきものを・・・、
与謝野晶子が12歳のころに読んだ物語の数々が
「私の血となり肉となった」という独白に始まり、
日露戦争非戦から女性の自立を詠い、
歌人として、妻として、母として、教育者として、
明治・大正・昭和の三代を激しく走り抜けた
晶子の歌と情熱の世界が万華鏡を見るごとくに再現。
「人生とは思い切り人を恋し、
人のいのちの愛を詠うことだった」
という述懐で幕が下りました。
中に、台本を書いた持谷さんが
晶子に寄せた詩が3つ織り込まれて、
さらにオペラをドラマチックに盛り上げておりました。
カーテンコールのあと、作曲演出の仙道作三さんが、
持谷さんの持論である
「与謝野晶子の家庭教育論」を代弁するかのように、
「いまは子供たちに英語教育が盛んですが、
こうして日本の伝統文学が語り継がれていく――
これは素晴らしいことですね」と締めくくっておられましたが、
これぞ「声を出していのちを語ろう」
「声を出していのちを掴もう」――
多くの日本人の魂にナラティヴで心のエンパワーをもたらす、
いま貴重な活動だと思いました。
≪懐かしさに還る≫・・・これが、
僕の人生観の原点といいますか、
生命観になっていますが、その日は、
≪懐かしさ≫の快いエネルギーの場に包まれた1日でした。
「声を出していのちを掴もう」――、
「声を出してエンパワーしよう」――、
これは、なんでもかんでも、
欧米ものまね化、マニュアル化している、
いまのコミュニケーション断絶の社会で、僕たちが、
どうしても見直さなければいけないことなんですね。
※1 http://www.sarugakyo.net/
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