第154回
百歳まで現役・・・。
ジャーナリストとしてだけでなく、
長年のガン闘病の先輩として敬愛している人に
出版評論家の塩澤実信さんがおられます。
直腸ガンを手術して11年、
その後、故郷・長野県飯田の伝統料理の手作り食事法などで
体質改善を図って見事に生還。
78歳にして、毎月のように単行本を書いておられます。
先日は、「文豪おもしろ事典」(北辰堂出版)という
新刊を贈っていただきました。
近代をリードしたトルストイ、
ドフトエフスキーから夏目漱石、川端康成、はては、
いま活躍中の浅田次郎、村上春樹まで内外の著名作家254名を
「大文豪」「小文豪」「文豪候補」とランキングして品定めし、
知られざるエピソードを総集した、
とても読みやすくて面白い本です。
ちなみに、塩澤さんについては、
このコラムで前に触れたことがありますが、
僕たちが発行している会員雑誌「いのちの手帖」第5号に
≪特集 作家に学ぶ! 長寿人生をどう生きるか?≫
・「人生これからですよ」――と題して、
“100歳まで現役作家”を貫かれた大作家・野上弥生子さんの
秘話を寄稿していただきました。
もちろん、こんどの新刊にも、
その野上弥生子さんの長寿エピソードが
「大文豪編」の中に登場します。
≪栗田書店の会長のかたわら、布川出版研究所を主宰していた。
その布川が75歳になった時、
「そろそろ後進に道をゆずって引退を・・・」と相談すると、
文化勲章受賞作家は、15歳年下の布川角左衛門に向かって、
「何を言うんですか。わたしは90歳のこの年になって、
やっと、文章らしい文章が書けるようになったと
思っているんですよ。
まだ75歳で引退なんて、とんでもないことです。
あなたの人生はこれからです。これからですよ」と、
毅然として言われたそうです。≫(以下略)
という、じつにパワー溢れる大作家の人となりを
サラリと明かしているところが、この本の痛快なところでしょう。
また、この「文豪の品定め本」構想のプロトタイプ(元型)
として筆者が参考にしたと思われる、
作家・直木三十五の作品エピソードの中で、
70年前、当時の文壇を揺るがした「文壇価値調査票」という、
大正期の作家たちを一刀両断した記事を
取り上げているのがポイントです。
当時、活躍していた売れっ子作家の芥川龍之介から今東光までを、
容赦なしに俎上にのせて一刀両断したわけですから、
酷評された作家たちの中からは、掲載誌である
「文藝春秋」に抗議が殺到したというのですね。
さて、平成版「文壇価値調査票」ならぬ、今回、
出版界のご意見番・塩澤さんの著した「文豪おもしろ事典」は、
いわゆるただのゴシップではなく、過去・現在・そして未来の
『文豪作家たち』の生き方をじつに包容力ある眼差しで
検証している内容ですから、
読んだ読者が爽快に通読できるところが、
さすが塩澤さんなのです。
あとがきには、著者が、
次のような楽しげなメッセージが書いています。
「強烈な個性にあふれ、己を持する生き方を貫く彼らゆえ、
ここに集められた文豪・BU・N・GOのエピソードの山も、
しょせん氷山の一角に過ぎない。(略)
一読―― 一笑、一驚、一憫、
「文豪・BUNGOってこんな人間ですか?」の声をお聞きできれば、
著者としては、こんなうれしいことはない」と。
まえに、このコラムで、たとえ年齢を加えていっても
いつまでも「自己有用感」に満ち溢れている人は、
ますます生命エネルギーが高まるという話を書きましたが、
この本に登場する文豪のみなさんの生き様はもちろんですが、
78歳にして筆法がますます冴え渡る
著者のエネルギーも見習いたいものだと思いませんか?
一読爽快な本です。お奨めします。
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