第95回
WHO方式による「ガン鎮痛治療の国際基準」
最新号「いのちの手帖」第5号の藤野さんのレポートは
一挙22ページに及ぶもので、
「イザというとき知っておくべき鎮痛療法と緩和ケアの新知識」の
各論部分についての抜粋紹介の続きです。
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現在の緩和ケアでは
「夜、ぐつすり眠れるようになる」
「安静時に痛みを感じない」
「からだを動かしても痛みを感じない」
という3つのポイントが目標にされています。
そして「薬物療法」「神経ブロック」
(ブロックとは遮断すること)、
「神経刺激療法」の3つが大きな柱になっています。
ここで世界の基準になっているのが、
「WHO方式」といわれる「がんの痛みの治療の国際基準」です。
WHOとは「世界保健機関」のことで、
この基準ができたのは、1987年のことでした。
いまではガンの治療法の常識が、
5年もたてば過去のものになってしまうのに、
WHOの五原則は20年たっても、なお有効とされています。
これは5原則がいかに基本的で、
すぐれているかを示すものでしょう。
WHOの5原則の(1)は「原則的に経口で投与する」ことです。
なるべく簡便な経路で投与するのがいいということで、
経口投与(錠剤、粉末、液体)がむりなら
「注射」「座薬」「パッチ」(貼り薬)などが使われます。
(2)は「時間をきめて投与する」ことで、
薬の持続時間にあわせた使用法が求められます。
(3)は「段階的に投与する」ことで、患者の痛みに応じて、
鎮痛薬の使い方や組みあわせ方を考えるということです。
WHOはさらに、
痛みを「軽い痛み」「中程度の痛み」「中程度以上の痛み」
という3段階に区別した「3段階除痛ラダー」を設定しています。
ラダーとは「段階」という意味で、
痛みに応じて薬を強くしていくということです。
(4)は「個々の患者にあわせる」ということで、
ここでは医師と患者の協力体制が要求されています。
(5)は「きめの細かい対応をする」ということで、
個別的な副作用にたいする対応が求められます。
ここで、とくに(2)の「時間をきめて投与する」
にふれておけば、徐放性の「モルヒネ」などの
「強オピオイド鎮痛薬」は時間をきめて服用する必要があり、
急に痛くなったからといって飲む薬ではありません。
つまり鎮痛薬には、ゆっくり効果を発揮する「徐放性」の薬剤と、
緊急なときに服用する「レスキュー薬」
(「NSAIDs」〔エヌセイズ〕のような
非ステロイド性抗炎症薬など)があるということです。
「徐放性」の薬剤は、2〜3時間たってから、
ゆっくり効果がでるように設計されていますので、
急に痛くなったときに飲んだり、
噛んで飲んだりすべきものではありません。
このような飲み方をすると、
薬が予期された効き方をしないだけでなく、
急激な眠気のようなトラブルがおこるでしょう。
経口モルヒネの徐放薬のなかで、
もっとも広く使われる「MSコンチン錠」を例にとれば、
効果がでるまでに2〜3時間かかりますが、
痛みのあるなしに関係なく12時間おきに飲みさえすれば、
1日中、痛みを感じないですむでしょう。
患者は「MSコンチン錠」のほかに、
急に耐えきれなくなったときに、なにを飲むかをきめておき、
そのばあいの副作用と対策を理解しておけばいいということです。
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