第85回
わが身の「食事」に照らして「平和」を考える
トルストイ、ガンジー、賀川豊彦といった
無抵抗主義者のみならず、
幸徳秋水やその仲間といわれた無政府主義者・社会主義者には、
じつは、ベジタリアンや菜食・粗食主義に
共鳴する人が多かった――、
「食事と平和」「健康と平和」の関連は、
近代の裏面史を紐解いていくと、よく分かる――
という話の続きです。
これについては、幸徳秋水自身が、
大逆事件・処刑1ヶ月前の明治43年(1910年)12月、
「幸徳が暴力革命を起し」とされた罪案に憤慨し、
獄中から磯部四郎、花井卓蔵、今村力三郎の
3人の担当弁護士宛てに陳述書を提出していますが、
社会主義者・無政府主義者が即、
「短銃や爆弾で主権者を狙撃するもののごとくに解する」のは
偏見である主張して、以下のように興味深い文章を綴っています。
<無政府主義者が圧政を憎み、束縛を厭い、
同時に暴力を排斥するのは必然の道理で、
世にかれらほど自由、平和を好むものはありません。
かれらの泰斗と目せらるるクロポトキンのごときも、(略)
やはり乱暴者と思召しておいでかも知れませんが、
彼は露国の伯爵で、今年69歳の老人、初め軍人となり、
のちに科学を研究し、世界第一流の地質学者で、
これまで多くの有益な発見をなし、
その他哲学、文学の諸学通ぜざるなしです。(略)
またクロポトキンと名をひとしくした
フランスの故エリゼー・ルクリュス(Ruclus)のごときも
地理学の大学者で、
仏国は彼がごとき大学者を有することを名誉とし、
市会は彼を記念せんがために
パリの一道路に彼の名を命けたくらいです。
彼は殺生を厭うのはなはだしきため、
ぜんぜん肉食を廃して菜食家となりました。
欧米無政府主義者の多くは菜食者です。
禽獣をすら殺すに忍びざる者、
なんぞ人の解するごとく
殺人を喜ぶことがありましょうか。(略)>
このコラムは、別に、近代政治史や心性史の裏話を
主眼とするものではありませんので、
引用はこれくらいにしておきますが、
じつに「平和」とか「政治」とかいった分野でも、
それに関わる人の「食生活」が大いに影響力を持っている――
という話は、聞き捨てには出来ないと思いませんか?
ま、物事は単純には割り切れないでしょうが、
もし、現代人が、もう少し
「食事と平和」「健康と平和」の関係に関心を深めたとすれば、
今世界中に頻発する暴力や戦争・テロも
もう少し治まるのではないかと思いますが、どうでしょうか?
これからは、わが身の「いのちと食事」に照らして、
生命連鎖についても地球環境について、
それこそ「地球平和」についても
一人一人が見直す時代ではないでしょうか?
欧米モノマネ式の栄養カロリー計算に基づく「食育」ではなく、
「食事と平和」「健康と平和」に基づいた「食育」こそ、
これからは必要だと思います。
これが、21世紀の「ベジタリアン」、
ないし「穀物菜食者」の奥義でしょう。
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