第73回
「自立と実践」について
閑話休題。
このコラムでは、「患者漂流」や「ガン難民」という、
あまり有り難くない現象を乗り越えるために、
「久病良医」「己の命は己で守る」・・・という
自立型患者学のすすめを提案し、
多くの読者の皆さんからエンパシー(共感)をいただきました。
こと、ガン治療に限りません。
未曾有の政治経済システムの大崩壊の中で、
個人のライフスタイルそのものの『自立心』の大切さを
一人一人がかみ締める時代となっています。
ただ、自立心といいますと、巷の新書本などでは、
安直な自己啓発ハウツー本が沢山出ていますが、
いまの複層混迷化する社会を構造的に見つめなおし、
「自立と実践」について説き起こす
重厚な本が少ないことは残念です。
というわけで、最近、僕の手元に送られてきた、
これからの「自立と実践」に関する読み応えの深い本・3冊を
紹介したいと思います。
1.宮本なおみ・著 「革新無所属」(オーロラ自由アトリエ)
2.猪瀬直樹・著 「霞ヶ関『解体』戦争」(草思社)
3.逸見晴恵・基佐江里・著
「家族のがんに直面したら読む本」(実務教育出版)
◆「革新無所属」宮本なおみ・著
この本は、編集・製作を担当した、
友人の作家・山口泉さんと、
版元の経営者・遠藤京子さんから送られてきたもので、
元・目黒区議会議員 宮本なおみさんの回想録です。
保守・革新を問わず既成政党の持つ馴れ合い体質に抗して、
「働く者の政府を」「働く区民の区政を」を唱えて、
経済成長期の混沌の中で、東京都目黒区議に
5期20年を革新無所属議員として歩んだ女性の
いわゆる「市民運動の現場報告」ですから、
とかく安穏としがちな僕たちに目を覚まさせてくれる
1冊であることは間違いありません。
推薦者には、以下のような戦後市民運動史を画した
錚錚たるメンバーが名を連ねています。
天野恵一(反天皇制運動連絡会)、
井上スズ(元・国立市議会議員)、内田雅敏(弁護士)
内海愛子(アジア人権基金)、大倉八千代(草の実平和研)
上 笙一郎(児童文化評論家)、高 二三(新幹社)
新谷のり子(歌手)、高田 健(許すな!憲法改悪・市民連絡会)
高見圭司(スペース21)、富山洋子(日本消費者連盟)
中山千夏(作家)、原 輝恵(日本婦人有権者同盟)
林 郁(作家)、原田隆二(市民運動)
ビセンテ・ボネット(上智大学名誉教授)
福富節男(数学者)、保坂展人(衆議院議員)
山崎朋子(作家)、吉武輝子(作家)
皆さんも、今は実業界の雄として
活躍している方が多いわけですが、
学生時代は多かれ少なかれ安保世代、
全共闘世代の経験を持っているでしょうから、
懐かしい名前を見つけたことでしょう。
僕は、本文中に、昔、懇意にしていた参議院議員の田英夫さんや、
べ平連のリーダーで作家の小中陽太郎さんが出てきたり、
拙著「大正霊戦記―大逆事件異聞
沖野岩三郎伝」で触れた、
“生涯革命家”ともいわれた荒畑寒村さんの手紙まで出ていて、
とても親しみを持って読ませてもらいました。
宮本なおみさんとは面識はありませんが、
巻末には、友人の作家の山口泉さんとの対談もあり、
戦後、日本人の特質として「群れ化」と「収奪体質」という
キーワードを挙げて、
これからの「市民運動」や「自立と実践」について
解説されていますから、
元女性区議の貴重な体験録としてのみならず、
いまの日本人が忘れかけている大事なことを
思い起こさせてくれる良書としておすすめします。
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