第58回
橋幸夫さんの「介護秘話と家族愛」
歌手の橋幸夫さんの「宇宙人からの贈りもの」という、
母上の認知症介護の体験を綴った近刊の話の続きです。
贈ってくれたのは、この本の編集プロデューサーである
僕の友人の栗田晃一さんですが、
橋さんは、20年前に、母上の介護について、
「お母さんは宇宙人」と題するベストセラーを出し、
以降、忙しい芸能活動の合間に、
この体験談を中心とした講演会も全国で開いておられます。
今回、発売された「宇宙人からの贈りもの」は、
そのベストセラーの続編で
認知症を患った実母の介護体験を振り返りながら、
家族愛について語ったもので、
とくに、介護の中心となった奥さんの橋凡子さんが
「あとがき」を書いておられるのも感動的です。
「人生のどん底までのぞいた人は
『もうこうなったら明るく生きるしかない。
生かされているだけで満足しよう』と悟るのではないでしょうか」
という言葉は、多くの認知症介護に当たっている家族の方、
そして、ガンなどの難病と闘っている家族の方に、
心にしみる言葉ではないでしょうか?
「天使と宇宙人」という章は、
介護を体験している人には、とても勇気付けられる話が
詰まっていますので、そこを少し紹介させてもらいます。
≪「ぼけているお年寄りは、自分の鏡です」
ある介護のプロがこう言っていました。
わけのわからないことを言っているようでも、
話し相手の気持ちを敏感に察して反応してくるからです。
たとえば症状がかなり進行し、
家族の顔すらわからなくなった人でも、
相手が自分にやさしい気持ちで接しているのか、
いやいや介護しているのか、
はっきり見分けられます。
「あんたは私をばかにしている!」
つい軽くあしらうような態度をとると、
すぐこう反応されてしまいます。
だから、介護は自分自身を磨く修行になるわけです。
とはいっても、実際の介護現場は仰天することの連続です。
味覚や嗅覚が衰え、
自分のウンチであろうが花であろうが、
目にしたものはなんでも食べてしまう人もいますし、
ものを投げたり、夜中になると徘徊を始めたり・・・。(略)
私の妻にしても、挫折しかけたことがありました。
しかし彼女はここで発想の転換をはかったのです。
「私、義母さんはもしかしたら宇宙人じゃないかな、
と思うことにしたの。
私たちに人間として大事なことを教えたり、
家族、兄弟を仲良くするために宇宙から使わされた宇宙人。
そう考えたら介護がすごく楽しくなったの」≫
いやー、素晴らしい考え方ですね。
僕も6年ほど前に、認知症の母親を送りましたが、
なかなかここまで悟ることは出来きるものではありません。
今思い出せば、母にも辛い目に合わせたのではないかと
反省していますが、老齢化や認知症介護は
「明日はわが身」の切実な問題です。
この「長寿病弱」といわれる時代の必読の書だと思いますので、
ぜひ読んでみてください。
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