第22回
ガン=痛みをがまんしても、なんのメリットもない
「いのちの手帖」第5号に特集された
「ガン難民コーディネーター」の藤野邦夫さんのレポート
●最前線医学情報――「あなたは「ガンの痛み」に耐えられるか?
――の抜粋紹介の続きです。
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◆痛みをがまんしても、なんのメリットもない
わたしの経験でも、痛みをとった患者の病状が好転したケースが、
数えきれないくらいありました。
もっとも劇的なケースは、76歳の大腸ガンの女性でした。
鼻に酸素の管をつけた彼女は横になったきりで、
「早く、あっちへいきたい」というばかりでした。
幸い近くの病院に、緩和ケアを専門とする
エキスパートナースがいましたので、
痛みに対処してもらうよう頼んで帰ってきました。
すると、そのわずか2日後に、
「起きてテレビをみている。ごはんがおいしくなって、
元気がでてきた。トイレにもひとりでいっている」
という電話がありました。(略)
そもそも痛みや苦しみがないのに、
「あっちへいきたい」人間なんかいるはずがありません。
ガン患者はただでさえ、さまざまな不安や苦悩や
孤独感に押しひしがれています。
そのうえ痛みがひどければ、患者の意識はもっぱら痛みに集中し、
ほかのことに関心が向く余裕も、考える気力もなくなるでしょう。
さらに食欲がなくなりますので、
病気に立ち向かう意欲を失ってしまいます。(略)
現在の日本では、年間に3万人という自殺者のうち、
いちばん多いのがガン患者だという事実を、
医療関係者も一般の人たちも重く受けとめる必要があります。
しかし痛みや辛ささえなければ、ガン患者はどこにでもいる、
ごくごくふつうの人間にすぎません。
痛みや辛さがなくなれば、
ふつうの人間として喜びや悲しみの感情も、
正常な意識や意欲も、さらには希望さえもつ、
ひとりの人間にほかなりません。
そのように考えれば、患者の痛みや辛さをとる
ペインクリニックが、いかに大切かがわかります。
しかも、いまはガンの痛みの95パーセントまでが、
問題なく解消できる時代になっています。
そして、痛みをとることが本人の免疫力を増強し、
ガンを抑えこむきっかけになることが証明されています。
つまりガンの痛みに耐えるのが、
ばかばかしい時代がきたということです。
しかし、この進歩したペインクリニックの技術を生かし、
QOL(生活の質)の高い望ましい生活を送ろうとすれば、
患者の側にも自覚と知識が必要です。
患者の側で知っておくべきいちばん大切なポイントは、
「痛みを耐えることに、なんの意味もない」
ということです。(以下略)
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