第124回
クレープの食べ方には決まりがあります
この家に越してすぐ、
御近所から小麦粉とそば粉のクレープを
それぞれ10枚以上いただいたことがあります。
お店で買えば結構な値段になるため、どうしてこんなに…
新しい住人への歓迎にしてもちょっと不可解でした。
後でわかったことですが、
実は彼女、職業学校のクレープの先生だったのです。
だから生徒が焼いたものを
いつも近所に大量に配っていたというわけです。
私はこの時、初めて「そば粉のクレープ」なるもの食べました。
色は茶色っぽいグレーで、味は塩気と少々苦味…
というほどではないのですが、独特の風味を感じました。
美味しかったと同時に、かなり腹持ちのするものだと思いました。
ところで、いただいたのはすでに焼きあがったものでした。
これをフライパンにバターを溶かし、温めて食べるのです。
クレープというと
焼きあがりをどんどん食べるような印象をお持ちかもしれませんが、
実際にはすでに焼きおいたものを温め直すのも普通です。
パン屋やスーパーで
袋入りのクレープやガレット(前回参照)を売っていますが、
これを自宅で温めて食べるわけです。
ここでもだんだん自分で焼くことは少なくなってしまったからです。
それからフランスでは
小麦粉のクレープは必ずおやつやデザートとして食べるのですが、
そば粉のクレープは軽食、あるいはメイン料理として食べます。
つまり塩味で、ハムや目玉焼き、
チーズやソーセージを入れたり、はさんで食べるわけです。
小麦粉のクレープの種は、卵やミルク、砂糖を混ぜて作ります。
店や家庭によってその割合、混ぜるものも違うので、
好みの味とそうでないものがあります。
一方そば粉のクレープは水と塩しか入れません。
それでも味に違いが出るのは
粉その物の違いと塩加減によるものかもしれません。
いずれにしても後者は昔からずっとこうして作られてきました。
日本人だと反対の味にしてみようとか、
そば粉の混ぜものを変えても良さそうに思います。
でも、フランス人は絶対にしません。
誰かが試そうとしたら、おそらく一蹴されるのがおち。
だいたい試すことすら許さないでしょう。
だから私もやったことはありません。
とにかく小麦粉のクレープは甘く。
そば粉のクレープは塩味で、混ぜものは水と塩のみ、
と決まっているのです。
この規定を破ることはあり得ません。
彼らにとって絶対にして犯すべからずの
「食べ方」「作り方」なのです。
こういうところはすっごく頑固で保守的です。
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