国際結婚してフランスの田舎に住んで

パリだけがフランスではありません

第117回
ガイドブックは正しかった

ララ・タクルストの湖畔に、
泊まるつもりだった唯一のホテルがあった事はありました。
想像していた「鄙びた」感じではなかったので止めたのですが、
それで忘れられない一夜を送る羽目になったのです。

今回の旅の参考は、
定評のある自由旅行者向けの「ロタールRoutard」と
ミシュランの「ネオスNeos」という
グリーン版より実践的な2冊のモロッコ編でした。
どちらもフランス人対象ですから、
車で動く事を前提とした記述が多く載っています。

湖を過ぎ、
『一度は訪れる事を勧めたい風景が展開する道』と書かれていた
マラケシュからウリガン渓谷を通り、
標高2100mのティズイン・テストTizi n Testを越えて
タルーダント(16世紀にモロッコの王朝の都だった町)へ抜ける
190kmの道を行くことにしたのです。

もともと湖で1泊するつもりだったので、
この道筋に合流しても山に入る前の渓谷で宿を取るつもりでした。
ところが山の中へ入ってしまったのです。

山道は傷みがひどく(そうガイドに書いてありました)、
路肩が崩れて車1台がようやく通れる幅しかなかったり、
ざっくり亀裂が入った個所もありました。
季節はまだ冬。
砂漠を行くには良いのですが、
村一つない2000mにもなる険しい山の中。
気温もぐんぐん下がっていました。

実はロタールに山頂を越えると2kmほど先に
宿があるとあったのです。
でも山のどの辺に居るのかがわかりませんでした。
そうこうしているうちに夕闇が迫り、
あっという間に濃い霧に包まれてしまったのです。
どんなに目を凝らしても一寸先も見えないほど。
息子を怖がらせたくなかったので
オリヴィエも私も口には出しませんでしたが、かなり焦りました。

ウリガン渓谷以降、対向車には1台も行き会いませんでした。
でも、こんなところで車を止めるわけにはいきません。
山側には鋭い岩が飛び出し、谷側にはガードレール一つない急斜面。
落ちたら終りです。
彼は車をまるでカタツムリのようにゆっくり進めました。

と突然闇と乳白色の中、
車のライトに照らされて浮かんだ棒の先の板に
「30m先にキャンプ場あり」と書かれていたのです。

一筋の明かりが霧の中に見えた時、どんなにホッとした事か。
寝袋と貸してくれた毛布にくるまり、
吐く息が白くなるところで寝ました。

翌朝、きれいに晴れ渡ったそこは、
まさにティズイン・テストの頂上にあるお土産屋だったのです。
息子は雲が自分たちより下にある光景に驚いていました。

その後オリヴィエがガイドブックを読んでいて叫びました。
『ティズイン・テスト周辺は、
夕方になると必ず濃い霧が発生するので、
ここを越えるのは早い時間が良い』と書いてあったからです。

……続く


←前回記事へ

2005年10月14日(金)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ