第116回
観光客との出会いはビジネス・チャンス
こうして私たちはパリからマラケシュへ飛びました。
マラケシュはモロッコ南部最大の都市。
ホテルは、世界遺産にもなっているメディナ(旧市街)内の
ジャマ・エル・フナ広場の近く。
屋上テラスには、
夕方から夜ふけまで広場の賑やかな喧騒が響いていました。
3日目の朝、
マラケシュから普通の人とは違う道筋で南へ下ることにしました。
まずオリヴィエが30年前に訪れたことのある
ララ・タクルストLalla Takerkoustという
フランス領時代に造られた7kmほどの人工湖を目指したのです。
湖を回っている途中、てくてく道を行く
(モロッコでは車を持てない人のほうが多いので
長い距離を良く歩きます)一人の男性がいました。
めったに車など通らない道。
彼が手を上げて挨拶をしたので、
オリヴィエはその人を村まで送ってあげることにしました。
彼は少しフランス語が話せました。
そこで食事のできるところを尋ねると、案内してくれました。
村の中の埃だらけの道に面した小さなカフェ兼レストラン。
モロッコ風サラダと鶏のグリルができるというので、
それを頼みました。
注文を取った主人は向かいの鶏屋に肉を買いに行き、
案内人の彼は外から丸見えのキッチンで野菜を切り始めたのです。
畑仕事を終えて帰宅途中と聞いた気がしたけれど
店の人だったのか、と私は思ったものです。
料理は外観から想像もつかないほど「まとも」でした。
野菜は新鮮で、鶏肉はブロイラーとはまったく違う歯応えで
モロッコらしいスパイスがきいていました。
一方、案内してくれたおじさんは
いつの間にか店から消えていたのです。
「さっき車に乗せた人はどこへ行ったのかしら」と私。
「家に帰ったんだろう」とオリヴィエ。
わけがわからないという顔の私に、
これは彼とここの主人(友達)とのビジネスで、
あとで紹介料を受け取るはずだと、
オリヴィエはこともなげに言ったのです。
そうでした。この国で彼らより金持ちである旅行者
(たとえ同国人であっても)は、いつもビジネス対象なのです。
地元の人の好意や親切を受けた時、
それを無償、無料と思ってはいけないのを忘れていました。
日本で親切にしたり受けたりして、
それをお金に換算する人はいませんよね。
でも世界中でそれが当たり前だとはいえないのです。
特に宗教観から来る感覚の相違は大きい!
モロッコは国民の大半がイスラム教徒。
持つ者が持たざる者に分けるのは当たり前なのでした。
ここの支払いも村の人に比べたら
数倍のツーリスト料金だったと思います。
それでも私たちにとって高くはないし、
彼らにとっては当然の請求だったわけです。
……続く
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