パリだけがフランスではありません

第17回
古い物が持つぬくもり

我が家を見回してみると、
アンティークといえるほど完璧な姿ではありませんが、
古い物ばかりです。

今、こうして物を書いている机
(フランス語ではビューローbureau)は、
アメリカンスタイルと言われる1930年代製。
傷もあればインクの染みもあちこちに付いています。
その上に置いたランプも隣りに置かれた書類棚も
典型的な同時代の物。
居間のソファーは
イギリスのチェスター・フィールドスタイルの中古品。
客室のツイン・ベッドは南フランスでよく使われた
松材を使った1900年スタイル
(1870〜1914年、アールヌーボーともいいます)、などなど。
いずれの家具もこんな調子です。

キッチンでアンティークのグラス
(1830〜1848年のルイ・フィリップ時代の
完全な姿を保っているのでそう言えます)や
毎日使う銀製のナイフやフォークを収納している茶箪笥があります。
そう「茶箪笥」。
東京の実家で埃を被っていたのをここに持ってきました。

オリヴィエのたっての希望でした。
私は昔から毎日見ていてなんの感動もなかったし、
ましてフランスの家にしっくり収まるか半信半疑でした。
でも、彼の目は確かでした。
きれいに埃を落とし、今は時々磨いてやります。
そうすると繊細で美しい木目がきわだち、
他の何物にも負けず澄ました顔でキッチンに落ちついています。

大方のキッチン大工事が終り、
やっと東京からの引越し荷物を開けました。
古い茶箪笥もようやく出して使うことにしました。
主人が引き出しを開けて取っ手がガチャガチャと音を立てた時、
突然、実家の居間、掘りごたつの脇に置かれた
この茶箪笥の引き出しから
大きな鋏を取り出す祖父の姿を思い出しました。
とても不思議な、懐かしいものに触れた気持ちでした。
その光景はかれこれ40年以上も前の事です。

好きで手に入れた古い道具には、
人の手のやさしいぬくもりを感じます。
物はいつか壊れることも、
手放さなければならないこともあるでしょう。
でも別れが来るまでは愛情込めて使おうと思います。


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2005年2月23日(水)

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