第16回
ミモザ
まだまだ寒い2月の最中、
散歩の目を楽しませてくれる植物があります。
それは、晴れた日の青い空をバックに
こんもりと枝いっぱいにカナリヤ色の花をつけるミモザの木です。
派手やかなミモザは、
色彩に乏しかった灰色の冬景色を
精一杯華やいだ雰囲気にしてくれます。
南フランスで良く知られていますが、
ここ南ブルターニュでもあちこちの庭に植えられ、
いち早く春の訪れが近いことを告げてくれます。
以前から「ミモザ」が花の名であることは知っていましたが、
長い間、いやここフランスで暮らすようになるまで
背の高い木になるとは思っていませんでした。
日本語と英語では
オジギソウという植物を指すのが本当らしいのですが、
フランス語ではギンヨウアカシアをもそう呼びます。
だからここで言う「ミモザ」は、アカシア属の木なわけです。
根元から数本の幹に分かれ、上へ上へと延びて行きます。
満開のミモザのそばを通ると、
甘い香りがやさしく鼻をくすぐります。
一つ一つの花は5mmほどの小さな毛糸のボンボンのようで、
枝に幾つも房のようにつきます。
大きく育った木が満開の花をつけると、それはそれは艶やか。
まるで黄色のドレスをまとった貴婦人です。
一方、日本でミモザに相当する木といったら梅でしょうか。
コートの襟をしっかりかき合わせたくなる寒風の中で
ほころぶ梅の花。
派手さはありませんが、
しっとりした美しさと香りはいかにも日本的です。
艶やか貴婦人とはまったく違いますが、
清楚で凛とした美しさ…
それはそのままフランスと日本が持つイメージ
(もちろん現実はそんな単純な一面にはとどまりませんが)
の違いに通じるものがあるといつも思います。
主人の両親の家で、
大きく張る根が家屋を傷めるとの理由から
やむを得ず育ち過ぎたユーカリの木を切りました。
オリヴィエがミモザを植えたらといったら、
花好きの母から
「春の数日しか花をつけない木はつまらない」
とあっさり断られてしまいました。
そういえば彼女の庭には
3月末に素晴らしい花をつける
日本種の桜(前の持ち主が植えた)があるのですが、
母はその素晴らしさを認めつつも
「実のなるさくらんぼの木だったらねぇ」と、
いつも少し残念そうにいうのを思い出しました。
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