第6回
3つのキーワード
フランスで暮らし始めてすぐ、
円滑に社会生活に溶け込むための
3つのキーワードに気付きました。
出会った時のボンジュールbonjour。
日本語の「おはよう」と「こんにちは」の区別はなく、
日中はいつでもボンジュールと挨拶します。
別れる時のオ・ルヴォワールau revoir、「さようなら」。
正確には挨拶言葉とは言えませんが
メルシーmerci、「ありがとう」の3つです。
これらを状況に合わせて上手に使うと、
あまりフランス語がしゃべれなくても
受け入れられた気がしました。
もちろんこれだけで会話は成り立ちません。
が、少なくとも初対面の相手に敵意のないことは伝えられます。
日本でも子供の躾で
「ご近所の人や知った人に会ったらきちんと挨拶しなさい」
と言いますよね。
子供の頃にこうした礼儀を身につけた人は、
大人になっても「きちんと挨拶のできる人」として
認められているでしょう。
それはフランスでもまったく同じでした。
ただ日本と違うのは、キーワードの効用が
けして「ご近所」や「知り合い」のみに止まらない点でしょうか。
人の多いパリでは必ずしもこの限りではありませんが…
たとえばこの辺ではバスに乗る時、
運転手さんに「ボンジュール」、
降りる時は「オ・ルヴォワール」あるいは「メルシー」と声をかけます。
少ない乗客に対してもそうした挨拶言葉をかける事もあります。
スーパーのレジでもこうした挨拶が普通にかわされます。
個人商店やマルシェ(露店市場)の店頭ではなおさらで、
「ボンジュール」も言わずに買物をしたら変な顔をされ、
失礼な客だと思われるのが落ちです。
日本だとお店での挨拶は売り手のほうからしますよね。
お客が店に入れば「いらっしゃいませ」。
品物を選んで黙ってレジでお金を払えば
「ありがとうございました」と言われます。
初めて日本に来て
スーパーやコンビニで買物をしたオリヴィエは
「日本の店ではみんな同じ事を言うんだね」
と感想を述べました。
マニュアル通りの決まったやり取りが不思議に思えたからです。
ようは「人間らしくない」という思いだったのでしょう。
ただね、
人間らしい会話のフランスで困るのは、
他に何人待っていようともお客とお店の人のやり取りが、
簡単に挨拶だけで終らない点。
「もう、早く切り上げて次の人の注文聞いてよね!」とは、
買物に行ってしばしば感じる、
せっかちな日本人の不満です。
|