たまたま『プレジデント』誌に大内侯子という美人のコーディネーターが食べ物についての聞き書きを毎号連載していて、いつか、私のところヘインタビューの番がまわってきた。毎号見ていると、どこかの料亭で話をきいている様子だが、まさか私のインタビューを自分の家以外のところでやるわけにもいかない。我が家の料理の話をするのだから、我が家でやるよりほかないと考えて、ふだんの半分くらいのメニューを組んで料理をつくり、料理を食べながらインタビューに応ずることにした。その記事が『ブレジデント』に「邱飯店のメニュー」と題して掲載されると、谷川先生と脇村先生の目にとまった。というより、両先生を囲んで食いしん坊が集まって定期的にあちこち食べ歩いており、その世話役を軽井沢で一杯一万円のコーヒーを売っている茜屋のご主人の船越敬四郎さんがやっていた。これら一群の食いしん坊たちがなんとか邱飯店で一席もうけてもらえないものか、と鳩首凝集したらしいのである。お金を払って食べに行けるところなら話は簡単だが、ご馳走になるよりほかないところだと、こちらから先に招待しないわけにはいくまい。衆議一決して、大内さんが台北にいた私のところまで国際電話をかけてきて、「谷川、脇村両先生が資生堂の上のロオジェにご招待したいが、ご都合はいかがですか?」ときいてきた。
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