三十三、美食と大食は紙一重
グルメ(美食家)とグルマン(大食漢)の差はフランス語ではホンの紙一重にすぎず、グルマンには健啖家という意味のほかに、食道楽の人という意味も含まれているそうである。そういえば、小食で美食家という人にはあまり出会ったことがない。
美食家は、食べ物にうるさいという面もあるけれど、食べる以上はおいしいものを食べたいし、おいしいものに出会ったら、貪欲になるから、どうしても大食いになってしまう。大食いだから健康なのか、健康だから大食いなのかはにわかに結論は出せないが、おそらく相互に関連しているのであろう。したがって大食いの人を見ていると楽天家が多く、あまり物事にこだわらない。とりわけ女の大食いは陽気で働き者で、お喋りだけれども、陰にこもらない。もし女をすべて赤鬼と青鬼に分けるとしたら、大食女は赤鬼で、胃袋が小さく、食欲が細く、あれが嫌い、これが食べられないという女は青鬼である。赤鬼は陽気な代わりに、癪にさわると腹の中にしまっておくことができないから、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。怒鳴られる方はたいへんな災難だが、その代わり雷雲が通りすぎるとケロリと忘れてしまう。
一方、青鬼の方は、気に食わないことが起こっても表情には現わさないし、口にも出さない代わりに、恨みがうちにこもるから、長い時間をかけてじっくり仇をとられる。どうせ鬼と同居するのが男の定めなら、青鬼よりは赤鬼の方がましである。そう思っているので、「妻をめとらば大食女」というエッセイを書いたことがあるし、息子たちにも、嫁さん選ぶなら食欲の旺盛な女がよいよ、と再三ならずアドバイスしてきた。息子たちも心得ていて、ガールフレンドをおやじに紹介する前に、「オヤジの前に出たら、しっかり食べるんだぞ」と耳打ちしているから、長男が結婚の相手を私に引き合わせたときも、一発で合格にした。
議員さんなどの集まりに行っても、大食漢ばかりである。議会で乱闘するときに体力が要求されていることもあるけれど、選挙運動のために僻村から離島まで遊説してまわるのにも身体が丈夫でなければならないし、歩きまわったり怒号したりすると、それだけ腹が減って大食いにもなるのであろう。だから議員さんには楽観主義者が多くて、自分のふところ具合についてもそうだが、国の台所が百兆円の借金になっても、あまり心配しないですんでいる。
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