もう一つの魚翅は、いわゆるフカのヒレで、中華料理の中でも最高峰の料理であるが、まず一口にフカのヒレといっても、どこのヒレか、またヒレの状態によって値段がまるで違う。産地も全世界の海に及び、アフリカ産の黄沙群翅、インド・ボンベイ産の西沙群翅、毛沙群翅、蝴蝶青翅、日本産の珍珠群翅、牙棟翅、沙婆翅、黒沙翅、牛皮沙翅、白翅、海虎翅、西インド産翅の軟沙群翅、黄膠翅と各種各様である。背ビレが見事なのもあれば、尾ビレの大きいのもあり、大翅と称して、ヒレの形のまま料理して出すフカのヒレの料理は、一人前で五、六千円はとられる。そういう大翅の材料になるフカのヒレはアフリカ産、インド産が多く、日本産は量は多いけれども形が小さいため、中級料理に使われるか、でなければ散翅と称して、スープの中に出てくる。
フカのヒレの戻し方も、鮑魚に劣らず手間がかかる。まず水につけてよごれをとり、ついでお湯で約三十分くらい煮る。しばらく蓋をしたまま冷めるのを待って水洗いをして砂をよくおとし、竹簀の上に並べて三時間ほど煮て、その水を捨て、さらに新しい水でまた三時間煮る。
これをきれいな水の中に一晩つけると、白い透きとおった魚翅ができあがる。ついこの間も、バンコックのチャイナ・タウンの魚翅専門店へ行ったら、この方法で、フカのヒレを煮ているのにぶつかった。しかし、こんな手間のかかることは最近では省略され、途中まで加工されたものを買ってきて、一晩水につけて、よごれをおとし、お湯で約一時間煮てからそのままもう一晩放置する。フカのヒレのままでは別に味はないので、鶏のスープで調理をするが、私の家では、ヒレそのものを調理する前に、油の中に生薑と葱を一本二、三切れに切って入れ、フカのヒレを軽く炒める。悪臭があとにのこらないようにするためである。それから、土鍋に鶏を一羽ごと(内臓を取ってきれいに洗ったものを)入れ、フカのヒレを周囲において水をさし、あと十時間くらい蒸籠にかけてゆっくりと蒸しつづけるのである。
もしこの通りやらずに、手間を省こうとすれば、蒸器にかける代わりに、土鍋をじかに火にかければよいが、その代わり、中のスーブが強火のために濁ってしまう。うちのコックはよくこの手でごまかそうとするが、「今日はじかに火にかけたな」というと、たいてい舌を出している。味つけは塩味がよく、醤油は使わないこと。せいぜい好みによって少し胡椒をふりかけるくらいで充分間に合う。
大きな土鍋に入れて出てくるこのフカのヒレのスープを、砂鍋大排翅と呼ぶ。台北市の「天厨菜館」で出るこの料理は一品だけで四千元するが、四千元あれば、十二人で料理が一卓食べられる値段だから、安いともいえない。邱飯店のメニューには、以上二つの料理がよく出てくるから、いちいち代金をちょうだいしていたら、そのうちにお客は誰も来なくなってしまうかもしれない。
|