第915回
「経済価値を考えず、住みよさだけを考えたのは大失敗」
若き日の邱さんの香港での活動拠点であった
「漆咸圍」(チャタム・コート)を訪ねた話の続きです。
邱さんは奥さんの強い勧めがあって、
チャタム・コートと背中合わせになった
12軒の英国風の閑静な住宅群の
奥から3軒目の2階建ての家を選びました。
12軒の住宅の中で1軒目だけが
チャタムロードに面していて、
奥は袋小路になっていたそうです。
邱さんご夫婦がその家を購入されたのは
昭和27年頃のことです。
ご夫婦はその2年後、
生まれたばかりの世嬪さんをつれて
日本に渡ることになるのですが、
2階建ての家を3階建てにし、人に貸して、
その後の生計の支えにされたようです。
さてその家はその後、
どうなったのでしょうか。
『失敗の中にノウハウあり』に
その後の状況が書かれています。
「そのうちに日本にも土地ブームが起こった。
香港の土地ブームは
それに輪をかけるくらい激しかった。
九龍にある私の家は、
位置的には最高のところにあったが、
生憎なことに袋小路の中にあった。
東京の土地は今でこそ大暴騰して
坪5千万円の地価も珍しくなくなったが、
香港は15年も前に坪当たりにすると
4千万円くらいになっていた。
もし私が袋小路の中に家を買わず
一本隣の家か、
それとも大通りに面したところに家を買っていたら、
私の50坪は20億円になっていなくとも、
10億円くらいにはなっていたであろう。
しかし、人の家のうしろになっていて、
12軒を同時に建てるのでなければ
役に立たない地所は、その10分の1でも
誰も買ってくれる人がいなかった。
1972年になってから、
やっと買いたいという人が現われ、
私はその家を香港ドルの80万ドルで処分した。
日本のお金になおすとたったの4千万円であった。」
(『失敗の中にノウハウあり』)
ということで
「家を選ぶのに、経済価値を考えずに
住みよさだけを考えたのは大失敗だった。」
(『失敗の中にノウハウあり』)と
邱さんはお書きになっています。
のちに邱さんは私たちに、
不動産投資の考え方を
伝授してくださることになるのですが
邱さんの投資原則は、
こうした体験を下敷きにして
形づくられているのですから
おろそかにはできません。
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