第912回
奥さんを迎えたのもチャタム・コートのマンションです
若き日の邱さんの香港での活動の足跡を
探訪するツアーの話の続きです。
私たちが訪れた「漆咸圍」
(ツァツハムウイ・英語でチャタム・コート)は
郵便小包便でお金持ちになり、
邱さんが高級マンションを構えた場所ですが、
邱さんが結婚して、
奥さんをお迎えになった場所でもあります。
亡命青年として漂流生活を送っていた邱さんが、
亡命先で結婚したいきさつについては
半自伝『私の金儲け自伝』に
次のように書かれています。
「香港は現金な街である。
いままで私は同郷人を頼って
かろうじて居候先をみつけ、
10セントのバス代を節約するために
外出するときも駅頭まで歩いたりしたが、
あのときは誰も私を相手にしてくれなかった。
ところが高級マンションに住んで、
運転手付きの自家用車があるようになると、
いままで知らなかった人や、
商売の関係で知り合いになった程度の人まで
私のところにくるようになり、
私が独身であるのを見ると
『お嫁さんを世話しましょう』と
しきりに心配してくれる。
私が首をふって
『いやあ。私のような風来坊では
またどこに行ってしまうかわからないから、
女房、子供がいると足手まといになってだめです』
と言って断ると、
その頃、私のところに居候するようになった、
これまた台湾から逃げ出してきた亡命者の青年が、
『ちょっとちょっと』と私の袖をひっぱった。
『足手まといになるなんて心配する必要はないよ。
またどこかに行くことになれば、
そのときはここにおいて行けばいいじゃないか』
なるほどと、
私は思わず笑い出してしまった。(中略)
流れ者やゲリラ隊にはまた別な生活論理があって
しかるべきではないか、と私は考え直した。
そこで見合いに行くことを承知して、
その結果、結婚相手に選んだのが現在の女房である。」
(『私の金儲け自伝』)
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