第905回
邱さんの逃避行は“命からがら”のものでした
香港で、若き日の邱さんの活動の足跡を
探訪するツアーの続きです。
今回のツアーの下敷きに
私が参考にさせていただいたのは
『わが青春の台湾 わが青春の香港』
という本です。
この本を読んだのは随分前のことですが、
読んで驚いたことの一つは
邱さんは文字通り“命からがら”で
香港に飛ばれたのだということです。
というのも、邱さんが香港に飛ばれたのは
昭和23年10月21日のことですが、
翌々日の23日、台湾の警備司令部の捜査員が
邱さんが勤務していた銀行を捜索したとのことです。
文字通りタッチの差で
捜査の手を逃れられたということです。
もしその時、邱さんがつかまっていたら
再び日本に戻って
直木賞受賞作品『香港』や
丸谷才一さんが激賞した
食べ物随筆『食は広州に有り』も
生まれなかったことでしょう。
また『金銭読本』や『投資家読本』など
「お金」や「投資」についての書も生まれず、
私たちが理財の指南書とした
『借金学入門』や『邱永漢の株入門』も
生まれていませんね。
また私などが強烈な印象を受けた
『サラリーマン出門』や
心のよりどころになった
『貧しからず 富に溺れず』や
『若気の至りも四十迄』や
『死ぬまで現役』の諸作品も
誕生しなかったでしょう。
更に多くの起業家候補生の指針となった
『成功の法則』や『企業家誕生』も
生まれなかったでしょう。
そして日本が金持ちになった過程を解明した
『金持ちニッポン』や『付加価値論』、
それに中国の発展をものの見事に予見した
『アジアの風』や中国人との交際術にふれた
『中国人と日本人』も生まれなかったことでしょう。
そしていま、私たちが手にする
『中国への旅、食も楽し』や
『中国株の基礎知識』にも
お目にかかることはなかったでしょうね。
邱さん、よくぞ官憲の手をかいくぐって
生き抜いてくれましたね、と感謝する人が
少なからずいらっしゃることでしょう。
そんなことを思いながら、
ペニンシュラホテルから
邱さんが居候されていた先まで
歩くことにしました。
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