第749回
「頭でなく技を売り物にするのが賢明です」
私は自分の仕事について考えるセミナーを
ひらいています。
そのセミナーに、参加してくださっている人は
しばしば、「手に職を持つことが大事ですね」
とおっしゃいます。
この「手に職を持つ」ということについて、
邱さんが『女の財布』で
次のように記述されています。
「『手に職』といって、
男でも大工とか、左官とか、
身についた技術があれば、
食いっぱぐれがないと昔から言われている。
女の手内職は生花とか、踊りとか、お茶とか、
髪結いとかいったものが多かった。
いまは時代がかわったので、
昔のままということはない。
男の職場に女の人が進出して、
肩を並べて競争しても少しもおかしくない。
しかし、そういう時代になっても
『職』と名のつくものと、
『職のように見えてそうでないもの』
との区別はあるし、また同じ『職』であっても、
女性に向いているものと、
そうでないものとの区別は
依然として存在している。
たとえばソフトの時代になってきたから、
誰でも入社すると、
ソフトを担当する部署に配属されることを願う。
どこの会社でも花形は企画部であったり、
宣伝部であったりする。
そこで企画部や宣伝部に配属されると、
とびあがって喜んだりするが、
そういう部門に配属されたからといって、
特殊技術が身につくわけではない。
一万人従業員のいる会社で、
企画や宣伝を専門にして
飯が食っていける人間は
おそらく一人か二人しかいないだろう。
それは技術というよりは頭脳の仕事であろう。
だからいくらそばにいて見習っても、
こちらの血となり、肉となるとは限らないし、
まして身体を動かす以外に能があるとは思えない人間が
頭を売り物にしたいと考えるのは、
身の程知らないといわれてもしかたがない。
『職』とは『チエ』のことでなくて
『ワザ』のことである。」
(『女の財布』)
|