第724回
かつては邱さんも “女は家内”論者でした
邱さんは時代の先端を走る人にふさわしく
女性に対しても、
家の中にこもるのではなく
外に出て働くのがいいですね
とおっしゃっていますが
作家活動に入って間がない昭和34年、
『婦人公論』誌に『男女分業論』を書き、
女性は職業に就かないほうがいいと主張しました。
以下はのちに執筆した『女の財布』のなかで、
そのことを伝える文章です。
「私は『男女分業論』というのを書いて、
男は生活の資を稼ぐために外にいて働きに行き、
女は家にいて家事と育児に精を出すのが
リクツにあっていると主張したことがあった。
戦後の生活苦の中で、
男一人分では、支えるに充分でなく、
男女とも稼ぎで、
女も働きに出る風潮の盛んな時代のことであった。
私が女性の職場進出に反対したのは、
『男の職場が荒らされる』とか
『女が職場に向いていない』とか、
そんな男の偏見に根ざした理由からではなかった。
女には家事とか育児とか、
男の労働に匹敵するだけの重労働が
要求されているのに、
この上、外にまで出て行ったのでは、
過重労働になりすぎて
男より早く年をとると心配したのである。
男が年より老けて見えるのは、
多少リコウそうに見えて
大して支障はないが、
40歳になった女性が
50歳みたいに見えたらどうなるだろうか。
男40歳は通常、働き盛りである。
社会的にも金銭的にもいくらか余裕ができる。
そういう男の目の前に、
美人で経済能力がなくて、
あなただけが頼りです、
といった20歳の若い娘が現れたら
経済力があって、自尊心が高くて、
容易なことでは妥協してくれそうもない古女房と
はたしてどちらをとることになるだろうか。
そういうことを考えたら、
一生懸命 働いて
早く額や顎にシワを重ねるよりも、
少々金銭的には不自由をしても、
念入りに若さを保つ工夫をしたほうが
女のためになると私は主張したのである」
(『女の財布』昭和60年)
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