第647回
過去の経験に頼っているばかりでは時代遅れになる
『死ぬまで現役』というタイトルは
これ自体、強烈な力を発する言葉ですが、
この本の目次に目を通すと、
「経験は人間をダメにする」
と強い衝撃を与える言葉に出会います。
邱さんは、
「何でも体験してビッグになろう」
(『野心家の時間割』)という具合に
実地の体験を重視されるかたですから
「経験は人間をダメにする」と言われると
一瞬「どういうこと?」とびっくりし、
たじろいでしまいます。
が、違和感を覚えるような言葉に
深い真実と知恵が隠されているかもしれません。
邱さんの見解に耳を傾けましょう。
「今の世の中に起こっていることは
いずれも経験を裏切ることが多い。
次々と起こることは、
10年前に起こったことも、
20年前に起こったこととも違う。(中略)
年寄りが自分たちの昔の経験をもとにして、
『今時の若い者は』などと本気になって説教したら、
失笑を買うのが関の山であろう。
そういった意味では、
かって年寄りの最大の武器であった経験は
新しい時代を生きるについては、
威力を発揮しなくなっただけでなく、
むしろその人を第一線からはじき出す力として
働くようになってしまう。
その分だけ好奇心がうすれ、
探究心が醒めてしまう。
料理屋に行くにしても、
行きつけの店を順ぐりにまわるだけで、
次々とできる新しい店とは
ほとんど縁が薄くなる。
つまり自分の行動範囲が決まってしまうし、
生活のスタイルも固定してしまう。
そういうルールに自分を馴染ませてしまうと、
新しい変化に対応する能力が
しぜんと失われてしまうのである。」
(『死ぬまで現役』平成元年)
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