第640回
「世の先を明るく展望しよう」
前回、邱さんが昭和42年のときに
年をとっても
「『青年のごとくあること』を続けることはできる」
としている文章を紹介しましたが、
今回はそれに続く文章を
抜粋させていただきます。
「その一番よい方法は、なんといっても
『使ってしまった時間』のことを忘れて、
『残された時間』について考え、
かつそれを実行に移すことであろう。
この世はとかく生きにくい面があるので
『世の中はだんだん悪くなっていく』
という末世の思想が
抜きがたいほど根をおろしている。
私の知っている人で、
出版界に大正、昭和を通じて
生きてきた人がいるが、この人は
『出版屋はだんだんダメになるよ』という話を
私にあうたびにこぼしていた。
そうしたら
その予測通りご自身の事業は
だんだんダメになってしまったが、
出版事業はそのものは
彼の予測をよそにますます大規模化し、
ますます高収益をあげているのである。
だから『末世の思想』を持てば、
世の中は末世に見えてくるし、
『いまどきの若い者は』ということになってしまう。
しかし、反対に
『世の中はだんだんよくなっていくものだ』
という観点に立てば
なるほどそういうものだということになる。
たとえば自動車の普及は、
恐るべき交通禍をもたらしつつあるし、
みんなが歩かなくなって
人間の足を弱いものにしつつあるという意味で、
末世の現象とみなすことができる。
にもかかわらず自動車の洪水は、
ついに日本中の道を
にっちもさっちもいかないほど
うめつくしてしまうだろう。
それは一言でいえば、
自動車がもたらした便利さは、
それがもたらした禍のマイナス面をさしひいて、
なお充分おつりをわたしたちに
もたらしてくれたからである。」
(「年をとらない方法」昭和42年)
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