| 第606回「賭け事がやまないのは僥倖を夢見る人が多いから」
 邱さんは平成元年に執筆した『株は魔術師』で
 賭け事に興じる人間の習性にふれています。
 「株をやって本当に儲かるかというと、3人に2人は損をするか、損をしないまでも
 ほとんど儲からないで終ることが多いだろう。
 それでも株をやる人が多いのはなぜかというと、
 たまたま儲かることがあるからである。
 競馬や競輪に行く人があんなに多いのを見てもわかる。競馬や競輪は、1レースごとに儲け金の中から
 25%の税金をとり立てられる。
 次から次へと新しい賭け金が流れ込むから
 あまり目立たないが、
 もし同じお金だけで勝負をくり返すとすれば、
 2回目は75%、3回目は56.25%になり、
 4回目は42.18%、5回目は31.64回になる。
 10回目にはたったの7.5%になってしまうのである。
 1億円の賭け金があったとして、
 10回のレースに賭けただけで、
 元金は750円になってしまう。(中略)
 韓非子の中に『砂金を盗めば車裂きの刑に処するという掟があるが、
 砂金ドロボーはあとを絶たない。
 それはどうしてかというと、
 砂金を盗んでもつかまるとはかぎらないから』
 と述べられている。
 競馬や競輪に行く人があとを絶たないのも、
 本当は大半の人々が
 賭け金をまきあげられるのだが、
 皆が皆、まきあげられているわけでもないからである。
 それどころか、うまく大穴を当てると、
 何十倍にも何百倍にも戻ってくる。
 十に一つでもそういうチャンスがあると、
 『オレにその幸運がやってこないと、どうして言える?』
 と反論する人が出てくるのである。
 したがって高度成長が続いた間は、
 僥倖(ぎょうこう)を夢見る人も多くて、
 たった1回の有馬記念レースに
 100億円の賭け金がかかるという
 競馬ブームの時代がきた。
 お金を握ったことのない貧乏人の手にも
 あぶく銭がころがり込んでくるようになり、
 そういうお金は
 持ちつけない人のふところに
 いつまでもとどまってくれないから、
 競馬場を通過して
 落ち着くところへ落ち着くことになるのであろう」
 (『株は魔術師』)
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