第599回
「頭角を現すに比類なき努力を」
邱さんが『野心家の時間割』のなかで
「『寝食を忘れさせる』ほどの仕事を探せ」
と提言している文章の抜粋を
つづけさせていただきます。
「事業だろうと、ただの金儲けであろうと、
あるいは、個人的な成果をきそう発明発見や芸術活動にしろ、
一つの仕事を成功させようと思えば、
他に使う時間は全部、犠牲にしても、
全精力を集中しなければならない。
さきに、『ベッドの中の時間は節約できない』と書いたが、
『寝食』の中の『寝』の部分も
忘れなければならないのだから、
何だろうと遮二無二
切り詰めなければならないのである。
また私は『人は食べるために生きている』
という哲学の信奉者であるから、
おいしいものを食べるために
かなりの時間をさくことにしているが、
その時間もカットしてしまわなければならないのである。
『寝食を忘れて』という表現は、
むろんたとえであるが、
寝と食は生活の中の最も重要な部分であるから、
それを無視するくらい
時間が不足するようにならなければ、
仕事は大成しないのである。
したがって一日は24時間あって、
寝るのに何時間、食べるのに何時間と、
物理的な時間を並べていっても仕方がない。
いざとなったら、時間割は全部パアにして、
一つの事に集中し、奇人扱いされようと、
異端視されようと、屁とも思わないようでなければ、
とても力一杯生きたことにならないのである。
しかし、『寝食を忘れる』ほど熱中するためには、
何よりもまず、そういう情熱を傾けるだけの
値打ちのある対策を見つけることが先決であろう。
5時の退勤時間が来るまでに、
時計を10回も15回も見るような、
熱の入らない職についたのでは、
現在従事している職業で
『寝食を忘れる』ことは不可能である。
つまり時間をいかに合理的に使うかを考えるより、
時間を短く感じような仕事を見つけることのほうが
先決なのである。
そうした仕事を見つけるために努力しなければ、
『寝食を忘れる』ことはできないのである」
(『野心家の時間割』)
さて、いま
「『寝食を忘れさせる』ほどの仕事を探せ」
という言葉をかみしめていると伝えてくださった青年は
これまで通り大学で研究の道を続けていくのか、
あるいは別の道にコース変更するのかの選択を
自分自身に迫っています。
このような状況にある人にとって、
邱さんの文章は心の奥深いところに響くようです。
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