第583回
「世の中の決まりに頼らず、自分の選択で生きる」
邱さんは
『貧しからず 富に溺れず』(昭和60年)のなかで、
定年制度にふれた文章を書いています。
以前紹介したことがある文章ですが、
邱さんの思想を探究するため、
再度引用させていただきます。
「社会制度というのは
皆がとおる道みたいなものであるから、
道のないところにいきなり道ができるようなことはなく、
人がとおるようになってから道がひらけることが多い。
皆がとおるようになると、
道が広げられたり、舗装されるので、
とおりやすくなったと思う人は多いが、
もうその頃には時代遅れになっていて、
道もよく混むし、
不都合なこともあれこれ生じてくる。
気の早い人は、何とか、
もっと効率のよいバイパスができないものかと
思案をはじめる。
しかし、一度できた道は
『そこが人のとおる道だ』と
一般的に考えられているので、
車も人も押し寄せて
パンク状態におちいるし、
新しい道をつくろうじゃないかと
提案する人があっても
街道筋がさびれたら困ると言って
反対する人も現われる。
それと同じように社会制度も一旦、
制度として受け入れられるようになると、
新しい変革に対して
ブレーキとして作用するようになり、
時代に取り残されてしまう存在になる。」
邱さんが論語の中の
『人よく道を弘む、道、人を弘むにあらず』
を念頭において、
この文章を書いたことは明らかでしょう。
そしてこの文章を邱さんは次のように結んでいます。
「社会制度は、制度として受け入れられると、
今度はブレーキとして作用するようになるから、
社会制度そのものに、
時代を先導することはとてもできない。
したがって制度の犠牲になるまいと思えば、
個人の方がそれに挑戦するほかなく、
企業がそれを認めてくれないとしても
自分勝手に『40歳定年』を決め込むとか、
定年のない職業を探せばよい。
要するに、自分で自分の運命を決定できる位置に
自分をおくよりほかないのである」
(『貧しからず 富に溺れず』)
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