第582回
「世の中の決まりは後追いで決められる」
邱さんはときどき
論語の中の好きな言葉を引用して
自分の意見を開陳します。
たとえば昭和62年に出版された
『不動産が一番』のなかで、
次のような文章を書いています。
「論語の中に
『人能ク道ヲ弘ム、道、人ヲ弘ムルニ非ザル也』
という文句がでてくる。
道とは読んで字の如く
人の通る道路のことであるが、
人間が生きて行く上の基準となる道徳や
法律のことと解釈しても、
もちろん、さしつかえはない。
道があるから人が通るのではない。
人がたくさん通るようになれば、
道がしぜんに広がって、
ますます人が通るようになるのである。
それと同じように、
世の中の決まりと言ったものは、
最初からあるわけのものではない。
多くの人がそうすることが
人道にかなっていると思えば、
しぜんにみながそのしきたりを
守るようになるものである。」
(『不動産が一番』)
ただし、しきたりは変わっていくと
邱さんは書いています。
「世の中はめまぐるしく変わっていく。
そして変わらないようでも、時間がたつと、
あれこれとひずみが出てくる。
そのひずみをなおすために
また法律とか規則がつくられる。
どこの国でもいつの時代でも、
法律はひずみの出たあとになってから、
後追いの形でつくられる。
だから、ひずみをなおすことができないだけでなく、
ひずみをなおそうとして、
また新しいひずみをつくる」
(『不動産が一番』)
そしてこの文章のあとで、
「不動産に対する建築法規とか、
不動産取引に対する税法には
そうした弊害を伴ったものが多い」
という意見を提示しています。
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