第579回
「年寄りもみな年寄りの新人です」
昔、神田の古本屋で、
邱さんが昭和33年に出版した
『耳をとらなかった話』という本を見つけました。
その本には「私の運命カルテ」
と題するエッセイが載っていて、
それによると邱さんには
戸籍上の誕生日と実際に生まれた日に
2日の違いがあるとのことでした。
今回、秘書の方に確かめましたら、
戸籍上の出生日が3月28日になっていて、
実際は30日お生まれになっているとのことで
今日で邱さんは戸籍の上では
80歳になられるわけで、お慶び申し上げます。
さて、邱さんは今から17年前に書いた
「人生はもう一度というわけにはまいらない」
(『ダテに年をとらず』昭和62年出版)
と題するエッセイのなかで
「年をとる」ことの意味について
次のように書いています。
「若い人の目から見ると、
年寄りは人生の巧者のように見える。
多くのことを体験して年寄りになったのだから、
人生については何でも知っているように思われがちである。
しかし、それは錯覚というもので、
年寄りにとって年寄りになるのは
実ははじめての体験で、
年寄りとしては『ズブの新人』だから、
どうやって老齢期を送ったらいいのか、
さっぱりわからないでいるのである。
(中略)
そうは云うけれど、50歳の人には、
50代を体験したことのある先輩がいるのだから、
60歳の人に体験談をきいたらよいではないか。
同じように、60歳の人は
70歳の人から意見をきいたらいいではないか、
と思うかもしれない。
(中略)
しかし、70歳の人は、
50歳、60歳を体験したかもしれないが、
70歳としてはまだズブの新人だから、
70代をこれからどうやって体験するのか
夢中になっているところである」。
(「人生はもう一度というわけにはまいらない」
『ダテに年をとらず』昭和62年出版に収録)
ということは、
私などの目からは「人生の達人」というほかない邱さんも、
邱さんにおいては「80歳の新人」だ
ということになるのでしょうか。
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