第567回
邱さんのお金の話には気品が漂っています
最近の邱さんの文章を読むと、
香港の家を引き払い、
上海の新天地に新居を構えられたことがわかりますが、
今から12年ばかり前の平成4年、
邱さんが本拠を東京から香港に移されるということが、
大きな話題になりました。
どういうことだろうと
多くの人がいぶかるので
邱さんは『文藝春秋』誌に
『だから私は香港に移住した』
と題する作品を発表しました。
この作品の中で、
邱さんは自分が辿ってきた道を振り返りながら、
これから中国大陸で起こるであろう
大きな変化について書きました。
それから12年たち、邱さんが予想した変化が
誰の目にも明らかになってきたわけですが、
邱さんは自分の来し方を振り返るところで、
直木賞作家になったあと、小説を書くのをやめ、
お金のことを書くようになった頃のことを
ふりかえるくだりがあります。
以下に前回紹介した言葉が出てくる文章を
抜粋させていただきます。
「私は途中からお金の話に転向し、
小説だけが文学だと思っている人の目には、
ひどい堕落に映ったかも知れないが、
私はさして意に介しなかった。
もし、お金の話をすることが堕落だとしたら、
その後の財テク・ブームやバブル経済を
どう見たらいいのだろうか。
私にいわせると、これは新しい時代の到来にほかならず、
お金は単なるハウツウではない。
人間の生き方を左右する
哲学の最大のテーマと言っても過言ではない。
マネー・ブームは、日本人が豊かになって来る過程で
自然に生まれたもんですが、
新聞や雑誌がそれを取り上げるようになったのは
決して偶然ではないのである」
(「だから私は香港に移住した」『日本脱出のすすめ』に収録)
最近、いろんな人が
お金のことについて書いていることは、
私なども承知していますが、
邱さんが書くお金の話には独自の気品が漂っており、
それに並ぶような作品にお目にかかることはありません。
なぜ邱さんの作品には独特の気品が漂っているのか
ここに抜粋した邱さんの文章が
その秘密を伝えてくれるように思います。
私のセミナーに出席された女性の一人が
「お金にまつわる話」にチャレンジする
という出来事に触発されて、
自分の頭に浮かんだことなどを
少し道草して、書かせていただきました。
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