第553回
「どんな体験も役に立たない体験はありません」
カリフォルニアに住んでいた長男のところに
古書検索サイト『紫式部』さんのHPに
エッセイを書きませんかという話が来て、
私は近況を伝える嫁の文章がよく書けているので、
エッセイの執筆を頼むなら長男でなく、
嫁の方がいいと考え、打診しました。
実は、長男の嫁は、
結婚する前から本を探すときに
“紫式部”を利用していたようで
私が書く文章の中に“紫式部”のことが出てくると
懐かしい思いをしていたようで、
「世の中なんて狭いもんだなあ」
と感じていたのではないかと思います。
が、突然、ふって沸いたように
自分から以前、アクセスしていたサイトに
エッセイを書きませんかと打診され、
ひっくり返るほどビックリしたに違いありません。
もちろん私も無神経に頼んだわけではありません。
夫の父親という断りにくい人間からの打診ですから、
打診を受ければ、受けた方はどう対応していいか、
悩むに違いないと思いました。
しかし、こういう場合、
私には邱さんから教えていただいた
人生における対処法が指針になってくれます。
このケースでは、「どんな体験も役に立つ」
という言葉が私の頭に浮かんできました。
邱さんは体験を重視する人で、
その著作には「体験」とか「経験」という言葉が
盛んに登場します。
ただ邱さんの考えは
一筋縄ではとらえられないところがあり、
例えば、『死ぬまで現役』という本には
「経験が人間を駄目にする」といった言葉もあります。
しかし、邱さんは、新しいことに取り組むことには
おおむね肯定的で、例えば、邱さんの作品には
「どんな体験も役に立たない体験はありません」
という言葉があります。
私も本当にそうだなあと思っていましたので、
海の向こうに住む長男の嫁に思い切って、
「エッセイを書いてみませんか」
と打診したのです。
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