第477回
「頼りになるのは自分の実感です」
新聞の広告欄を見ていると、ときどき、
ケイ線のことを取り扱った本の広告に接します。
ケイ線とは株価の動きを表したグラフのことで
株の先行きを占ううえで、
役に立つといったことが書かれています。
でも、邱さんが株について
書いておられる文章を読む限り、
ケイ線をもとにして
あれこれ判断するという話はどこにも出てきません。
邱さんは、ケイ線というものをどうみておられるのか、
うかがってみましょう。
「プロになってくると、株価はケイ線で動くから、
ケイ線を追いかければ、どのレベルで高値になって、
どのへんで安値になるかわかる、とかいいます。
しかし、私はあまりケイ線なんか信用しません。
それよりも、自分の“実感”というものを尊重します。
過去に起こったことが、かならず、
また起こってくるんだったら、
世の中、苦労はないんです。
同じようなことが起こっていても、
実際は起こり方も、終り方も、
1回1回、ちがうと思うんです。
ちょうど、車輪は同じように回るかもしれないけれど、
車輪が通っているところは違うようなものです。
同じところでカラ回りしているわけではないんです。
株も同じような意味で、先へ先へと進みますから、
過去にどうなったかより、むしろ、
これから先どうなるか、
自分で見当をつけるほうが正しい、と私は思います。
そのとき、ほんとうに頼りになるのは、
自分の実感しかないんです。
ですからケイ線なんて、あまり問題にしない。
景気が悪くなって、売上げが減り、利益が減れば、
株価が上に行く可能性は少ないですよ。
その意味で、目をつけたA社の業績を見ることは重要ですね。
もっとも、欲と二人連れですから、
目も4つあるようなもので、
業績は自然に目につくし、頭のなかにはいります。
たいせつなのは、そこから生まれてくる実感です。」
(『株の原則』)
そういえば、平成元年に刊行された
『邱永漢のシルバー・グレーの金銭学』には
『株に勝つには第六感』というタイトルの作品がありました。
「第六感って何のことだろう」と思って読むと、
株とつきあっているうちに株の動きを察知する
「カン」が生まれてくるものだという説明があり、
「第六感」とはこの「カン」のことを指していました。
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